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「恥も外聞もないラブコールだ」アマゾン物流部門の元ナンバー2はヤマト運輸の救世主となるか?

丸の内コンフィデンシャル

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日本経済の中心地、東京・丸の内から“マル秘”財界情報をお届けする人気コラム「丸の内コンフィデンシャル」。月刊「文藝春秋」2022年9月号より一部を公開します。

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アマゾン“ナンバー2”を専務執行役員として招聘

 物流業界の関係者に衝撃が走る人事だった。今年5月、ヤマト運輸(長尾裕社長)はアマゾンジャパン(ジャスパー・チャン社長)の副社長で物流部門のナンバー2だった鹿妻明弘氏を専務執行役員として招聘した。

 鹿妻氏は日産自動車(内田誠社長兼CEO)を経て、2006年にアマゾンジャパンに入社。タフネゴシエーターで知られた鹿妻氏は、同社の急成長を牽引し、21年前半までに退社。その後、「2ケタ億円以上の株式報酬を手にした鹿妻氏は、趣味の競馬に入れ込み、馬主になるなど、悠々自適の生活を送っていた」(ヤマト関係者)。

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 宅配最大手のヤマト運輸にとってアマゾンジャパンは最大の顧客。内情を知り尽くす鹿妻氏を取り込むことで、良好な関係を保ちたいとの思惑が透けて見える。

アマゾンジャパン副社長の招聘に衝撃が走った ©共同通信社

 この10年あまりヤマトとアマゾンの関係は紆余曲折の変遷をたどってきた。13年から佐川急便(本村正秀社長)に代わり、ヤマトはアマゾンの配送を担う。しかし17年、ヤマトで宅配の急増による労務問題が表面化し、荷物の取扱量抑制と最大4割の値上げが実施された。

 するとアマゾンはヤマトへの委託量を減らし、丸和運輸機関(和佐見勝社長)やSBS即配サポート(鎌田正彦社長)など低コストの中小配送業者への委託を増やしたのだ。

 自ら宅配取扱量を抑制したヤマトだが、予想以上の激減に焦りを募らせる。そこで同社は20年6月からヤフー(小澤隆生社長)のEC出店者向けに物流代行サービスを開始。さらに一度値上げを迫ったはずのアマゾンに対し、値下げ料金の提供を始める。そんな状況下での鹿妻氏の招聘は「恥も外聞もないラブコールだ」(別のヤマト関係者)。

 今後、鹿妻氏はアマゾンとの交渉を首尾よく進められるのか。最大のネックとなるのが、ヤマト運輸と親会社ヤマトホールディングスの社長をつとめる最大権力者である長尾氏の存在だ。