二十歳の自分に勧めたい本はたくさんあります。当時はグラビアモデルとしての仕事依頼が多く、雑誌の撮影ではどこでもどんな季節でも、水着姿でカメラの前にいました。スカウトされて始めた仕事、きらきらな業界を端っこから覗き見て、完全に気後れしていたなあ。周囲からは活躍を期待されつつも自分の気持ちが全く追いつかず、ただただ緊張しながら現場に向かう日々でした。
野田知佑『日本の川を旅する』。《都会にいる時にあった卑小な感覚、感情、思考は、川の流れにこそぎ落され、風化して、今、体の中に残っているのは生きるために最低限必要な、基本的なものだけだ》。スリリングな瀬に対峙し、岸に上がって火をおこす。雨が降ればテント内で本を読み、空腹時にはエビや魚を捕る。漁師や農夫とのめぐり会い。心通わす交流ののちふたたび、単身で流れに漕ぎ出していく野田さんのなんと格好いいこと。自由は自分の手の中にあるけれど、それを使えるようになるには強い心と体、そして危機をうまく切り抜ける賢さがなければならないことに気づかされます。
ジョン・バーニンガム『ひみつだから!』は思わず笑ってしまうラフすぎる絵に惹かれました。主役の猫、マルコムがどのページを見ても違う猫に見えるのです。絵の整合性にとらわれず冒険自体を楽しんで、と言われているよう。裏路地でたむろするごろつきの犬どもにはセリフが全くなく、猫たちとの疎遠ぶりが際立っています。彼らには共通言語がないのか? この曖昧さ適当さが素晴らしい。一気に脱力できる一冊。
神吉直人『小さな会社でぼくは育つ』。業種問わず新米社会人が直面する壁っていくつもありますが、仕事に対する心構え、人間関係の構築、ピンチのときや失敗したときにどうしたらいいかなど、誰にも聞けなかったことが易しい文章で書かれていて(あのころの自分に渡してあげたい)と強く思いました。視野を広く持って、縮こまらずに。深呼吸は大事だよって、伝えたいです。
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『日本の川を旅する』野田知佑/新潮文庫
『ひみつだから!』ジョン・バーニンガム/岩崎書店
『小さな会社でぼくは育つ』神吉直人/インプレス
