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「部屋からにおいがしても開けないで」妹を殺害、遺体をバラバラに…両親はなぜ“加害者である兄”をかばったのか

渋谷区短大生切断遺体事件――平成事件史

2022/08/14

genre : ニュース, 社会

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 2007年を迎え、世の中が正月休みを終えようとしていた1月3日の夜、東京・渋谷区の歯科医師宅で長女の短大生、Aさん(20=当時)の切断遺体が発見された。1階は歯科医院として使われており、2階と3階の居住スペースのうち、3階にはAさんの兄で予備校生の次男・橋本耕太(仮名・21=同)の部屋があった。遺体は十数箇所を切断されており、同室のクローゼットとキャビネット内に、黒と透明のポリ袋、計4つに分けて置かれていた。

妹を殺害した動機

 室内に外部から侵入された形跡が見られなかったことから、警視庁捜査1課と代々木署は翌日早朝、神奈川県内で予備校の合宿授業を受けていた耕太に任意同行を求めた。当初はAさんの死亡について関与を否定していたが、午後になり、犯行を認めたため、警察は耕太を死体損壊容疑で逮捕した。

 このとき耕太は「妹から『夢がない』となじられたので、頭にきて殺した」と供述している。その後、台所の包丁と自室にあったのこぎりで、Aさんの遺体をバラバラに切断し、ポリ袋に入れた。床に落ちた血を拭き取り、包丁は元の場所に戻したという。大晦日、父親に「友人からもらった観賞用のサメが死んでしまったので、部屋からにおいがしても開けないで」と念を押し、予定通りに予備校の合宿授業に向かっていた。

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写真はイメージです ©iStock.com

「夢がない」の一言で、妹を殺害するまで、きょうだいはどのような関係にあったのか。何を思いながら、妹の遺体を切り刻んだのか。しかし、のちに行われた公判で、耕太の口からそれが語られることはなかった。

* * *

 Aさんの遺体が発見された頃、東京は別のニュースで賑わっていた。2006年12月、新宿区の路上と渋谷区の民家敷地内でそれぞれ男性の切断遺体が発見されていたからだ。別々の場所から見つかったこれらの遺体は同一人物のもので、耕太が逮捕された1週間後、同じく渋谷区に住む男性の妻が逮捕された。殺害に及んだのはいずれも2006年12月。渋谷区で立て続けに世を騒がす殺人・死体損壊事件が起きたことになる。

Aさん殺害後、予備校の合宿へ

 耕太は妹であるAさんを殺害後、衣服を脱がせ、その遺体の関節を切断し、左右対称に15に分けた。遺体を入れていたポリ袋のうち3つは、母親が異臭に気づきそれを見つけるまで、自室のクローゼットの中で新聞紙に覆われていた。そして彼は、大晦日からの予備校の合宿に、Aさんの下着を持ち込んでいた。

 逮捕後の取り調べでは、耕太は事件のことを詳細に語っていた。当時の供述によれば、事件の日の午後3時ごろ、2階の部屋でテレビを見ていたAさんから、こう言われたのだそうだ。