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「あくまで平家の人々に寄り添った物語にしたかった」アニメ『平家物語』脚本家が語る、“未来が見える目”が生んだ“緊張感”

尾上菊之助×吉田玲子#1

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 約800年前の古典が初めてアニメ化されるとあって注目を集めたTVアニメ『平家物語』。古川日出男現代語訳版を原作とし、脚本を『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の吉田玲子が手がけ、放映後も人気は衰えず、関連書籍の出版も続く。

監督・山田尚子×脚本・吉田玲子×キャラクター原案・高野文子×音楽・牛尾憲輔の座組で古典「平家物語」を初アニメ化。

「平家物語」は歌舞伎にとって、多くの関連作品を生んだ特別な存在。アニメを「とても面白く観た」と語るのは、歌舞伎俳優の尾上菊之助だ。2019年には漫画『風の谷のナウシカ』を新作歌舞伎として上演、現代の作品を歌舞伎と融合させ、古典芸能の継承に力を入れている。

尾上菊之助さんがナウシカを演じ、2019年に初演された新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』。10月21日からシネマ歌舞伎で全国上映される。(©松竹)

 古典を現代の物語として表現し、語り継ぐことについて、尾上菊之助と吉田玲子が語り合った。(全3回の1回目。#2#3を読む)

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琵琶法師と重盛をフィーチャーしたアニメ『平家物語』

菊之助 アニメ『平家物語』、エンターテインメントとして、とても面白かったです。とくにオリジナルだと思ったのが、琵琶を弾く少女“びわ”を主役に、平清盛の長男・重盛との関わりを中心に物語が進んでいくところです。「平家物語」は、主に盲目の琵琶法師が語り継いできた、語りの文学ですが、ゆかりのある作品は歌舞伎に数多くあれど、琵琶法師や重盛をフィーチャーすることはないからです。

尾上菊之助 

吉田 ありがとうございます。アニメを観る層にとって、古典文学は馴染みが薄く、題材として珍しいので、物語のガイドとして視聴者の視点に寄り添う人物が存在していると、作品に入りやすいのではないかと考えました。平家の人々を主人公にすることも可能だったのかもしれませんが、過去の時代の価値観のなかで生きている人にそのまま感情移入するのは、現代人にとって難しい面もある。

 びわはアニメオリジナルキャラクターなので、現代的な思考や感情を持っている人物に近く、見ている人の気持ちを代弁することもあるし、一緒に物語を見ていくことができます。「どうしてびわは平家の物語を語り継ごうと思ったのか」というのも、この作品のもう一つの大切な軸になってきます。純粋な少女と相性がいいのは、清盛ではなく重盛だと思い、次にクローズアップするのは重盛にしようと決めていきました。