文春オンライン

source : 提携メディア

genre : ビジネス, 社会, 働き方

何が「働かないおじさん」をつくるのか

たとえば、「女性は数学が苦手だ」というステレオタイプによって、実際に女性の数学の成績が落ちることは多くの実験で確かめられているし、「年寄りは物忘れがひどい」というステレオタイプは、本当に老人の記憶力を低下させる。「50代は高い給料もらっているくせにモチベーションが低い」というステレオタイプもまた、おじさんのやる気を低下させる。

「周りから何も期待されていない」「経験を話すと自慢だと勘違いされる」「余計なことしてくれるなと思われている」などと、みずから“働かないおじさん化”していくのだ。

しかも、「ステレオタイプ化」には伝染力がある。「働かない、やる気のないおじさん」に囲まれた環境に身を置くと、その人まで働かないおじさん化が加速するという、リアルな現象も起こる。

追い出し部屋とは、いわば「働かないおじさん製造機」のようなものだし、役職定年者が溢れる現場の伝染力もかなり深刻である。

社会のまなざしが人間を狂わせる

なんとも解せない話ではあるが、私たちの言動の多くは、社会のまなざしという得体の知れない空気に操られている。自分の能力だと信じているものでさえ、他者が深く関係しているのだ。

しかも、“まなざし”は実に厄介な代物で、「自分をほかの奴らと一緒にするな! ステレオタイプが間違いであることを証明してやる」と過剰に意気込むと、かえって能力をうまく発揮できなくなる。

とりわけ、孤軍奮闘を余儀なくされる状況下では、視野狭窄(きょうさく)に陥り、ストレスが蓄積され、心身ともに疲弊し、望ましい結果が出せず、ネガティブスパイラルに入り込んでしまいがちだ。

まなざしの圧は、私たちが想像する以上に強い。「働かないおじさん」という一見、ソフトな言葉の裏側には他者の心を傷つける“刃”が内在しているのだ。

「地獄とは他人」と説いた哲学者のサルトルは、“社会のまなざし”をregardと名づけ、権力関係を含む概念を展開した。つまり、まなざし=regardとは明らかな権力であり、優位に立つ者が、劣位な者に対し「あなたは私より下だ!」とみなす悪質なメッセージといえよう。