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「中継ぎは一喜一憂しすぎない。これに尽きる」“職人”中日・谷元圭介が後輩たちに伝える“極意”

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/09/06
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 計り知れない努力と不屈の精神に、感情移入せずにはいられなかった。7月18日、対DeNA戦(バンテリンD)の9回に登場した中日・谷元圭介投手。闘志を内に秘め、1回を3者凡退。通算500試合登板を達成し、拍手で迎えられた一塁ベンチ前で受け取った記念のボードは、控え目に、さっと地元のファンへ掲げた。

「中継ぎ投手として連盟表彰を受ける、一つの節目が500試合。ここを一つの目標にやってきた」。8月17日の広島戦(マツダ)では、NPB11人目となる150ホールドも達成。見た目から、いかにも“職人気質”な右腕は、球史に名を残す、貴重なセットアッパーへと成長した。

谷元圭介

 三重・稲生高、中部大、バイタルネットを経て、2008年のドラフト7位で日本ハムに入団。主に中継ぎとしてチームを支え、16年の日本シリーズでは広島との激戦を制し、マツダスタジアムで胴上げ投手にもなった。翌17年の期限ギリギリで、中日へのトレード移籍。幼い頃見慣れた地元球団のユニホームをまとった。身長167センチ、体重72キロ。球界“最少クラス”でも、18.44メートルの勝負には関係ないことを、その右腕が証明してくれた。抜群の制球力、強気で執拗な内角攻め。左打者、右打者問わず、各リーグ屈指の強打者と渡り合ってきた。黙々と目の前の仕事をこなし、ピンチでも動じることない姿に、中日ファンは“火消しの谷元”と称賛した。

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 最近は「年も感じるようになってきた」というチーム最年長投手。元々は、食事の席が大好きで、遠征があればナイター後、そのまま夜の街へ繰り出していたが、コロナ禍でほぼなくなった。電話取材中、記者も思わずうなり、今でも実践している「疲れを持ち越さない」方法が、なかなかいい。試合後は、特に興奮状態となってしまい交感神経が働いているため、ぬるま湯で半身浴(15~20分ぐらい)につかって副交感神経を刺激。体を落ち着かせ、最後は話題のヤクルト1000をグビッと飲んで締めるそう。7時間以上睡眠を取って、疲れを翌日の試合に持ち越さないのが“谷元流”のコンディション維持法だという。

プロ3年目に訪れた“転機” 厚沢コーチからの「即ファームに落とす」発言の答え

 日本ハム時代には年俸1億にも到達するなどリリーバーとして地位を築き、中日でも近年コンスタントに30試合以上を投げてきた。ベテランならではの経験と知識は、チームの変革期となった今年も健在だ。シーズン途中から26試合に登板し、4ホールド、1セーブ、防御率2.63と安定している(9月4日現在)。勝ちパターンばかり目にいきがちだが、福敬登投手、藤嶋健人投手、森博人投手らとともに劣勢の場面でも懸命に投げてきた。

 6月29日の巨人戦(郡山)では、4時間12分の熱戦を締めくくった。中日に来てから初セーブ。試合後に顔を合わせると、無言でグータッチしてバスへ乗り込んでいった。記者としてみる背番号14はまさに仕事人で、クールで、かっこいい。一度思い切って聞いてみたことがある。「谷元さんは、なぜあんなにマウンドで淡々としてるんですか? 打たれて悔しかったり、抑えたらうれしかったり、いろんなことがありますよね」。アンサーは意外なものだった。「俺にももちろん、そんな時代あったよ」。

 時はさかのぼる。2011年。プロ3年目だった。当時、投手コーチを務めていた厚沢和幸氏(現・オリックス投手コーチ)に「ガッツポーズやしぐさ、表情を見せるな。次そんなことしたら即ファームに落とす」と一喝された。当時は血気盛んだったが、言われるがままに気持ちを抑え込んだ。結果、プロ3年間で最多の47試合に投げ、防御率も2.47と飛躍的に向上した。今だから分かる優しさを解説してくれる。

「中継ぎは、一喜一憂しすぎない。これに尽きる。例えばど真ん中にいってホームラン級のファウルだったとする。このとき『やばい』と思うのか、『甘くなったけどファウルになった。球はいってる』と思うのか。そりゃ、先発の勝ちを消したときは悔しくないわけない。今でも毎日、吐きそうになってる。行かなくていいんだったら、マウンドに行きたくない。でも、行く。そして、打たれてしまったら、それが『技術的なミス』なのか『メンタルなミス』なのかを反省する。翌日の練習でそれをしっかり修正する。もうその繰り返し」

 今はけがで2軍調整中だが、今年1月の宮古島自主トレをともにした5年目の山本拓実投手も、感情の起伏を意図的に抑え込むように、淡々と投げて前半のチーム支えていた。「強気な投球姿勢は時に冷静さを欠くこともある」。これも谷元から学んだ姿勢の一つだ。

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