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“努力の天才”ソフトバンク・仲田慶介、福岡大同級生“徳島のギータ”との特別な絆

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/09/14
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 先日、良い光景を見た。ホークスのファーム本拠地・タマスタ筑後で行われたホークス3軍と四国アイランドリーグ・徳島インディゴソックスの定期交流戦でのこと。徳島の選手が先制適時二塁打を放つと、二塁ベース付近でホークスの選手が控えめに笑みを浮かべた。すぐ口元をグラブで覆い、2人は目を合わせ、塁上で短く言葉を交わした。一瞬時が止まったように2人の時間が流れているようだった。

©上杉あずさ
©上杉あずさ

 この2人とは、徳島インディゴソックス・井上絢登外野手と、ホークス・仲田慶介外野手。共に、福岡大学硬式野球部出身の同級生。昨年まで福岡大のチームメイトとして共に戦った仲間だ。それぞれが進んだ次のステージで、今度は対戦相手として同じグラウンドに立っていた。それだけでも感慨深いものがあるのだが、2人の関係性は一言では表せない、深く特別なものなのだ。

「来年、一緒にプロになりたいからお互い頑張ろう」

 共に福岡県出身で、井上選手は久留米商業、仲田選手は福大大濠から福岡大に進んだ。井上選手は1年の頃からレギュラーの座を掴み、『福大のギータ』と呼ばれるフルスイングが持ち味だった。仲田選手は高校も大学も控えから這い上がった『努力の天才』。2人は大学1年の時から、同じ外野手として切磋琢磨してきた。毎日のキャッチボールも気付けばペアだった。全体練習のみならず、自主練やトレーニングも共に行ってきた。姪浜のバッティングセンターにも一緒に通ったし、百道浜ではデート中のカップルを尻目に走り込みをした。互いに指摘し合ったり、教え合ったり、支え合って“プロ野球選手”という同じ夢を目指した。

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 そして、共にプロ志望届を出し、迎えた昨秋のドラフト会議。仲田選手は福岡ソフトバンクホークスから育成14位で指名された。昨年のドラフト会議で全体の最後の最後、128番目に名前を呼ばれると、涙が込み上げた。育成選手としてプロ野球の世界に飛び込むことが出来た。

 一方で、井上選手は指名漏れ。当然、悔しい気持ちが溢れた。ドラフト終了後、共に見守ってくれた野球部の仲間たちの前で仲田選手は、みんなへの感謝と共に井上選手への想いを話したという。「井上には一番感謝している。来年、一緒にプロになりたいからお互い頑張ろう」というようなことを伝えたそうだ。井上選手はちょっぴり照れ臭かったというが、心強かったに違いない。下を向くことなく、すぐに来年へと気持ちを切り替えることが出来たのには、仲田選手の存在も大きかったことだろう。

福岡大時代の井上選手(左)と仲田選手(右) ©上杉あずさ

井上選手の成長に“凄い”を連発

 その後、井上選手は独立リーグから「1年でのNPB入り」を目指すことを決意した。徳島インディゴソックスに入団すると、ここまでメキメキと成長を遂げている。現在はリーグ断トツの本塁打を放つなど、持ち味のフルスイングでパンチ力を発揮している。

 そんな井上選手の姿に、仲田選手は「もう凄い。大学の時も凄かったですけど、徳島行ってさらにレベルアップしていて、普通に凄いなと。バッティングもフルスイングする中でも確実性が上がっていて、守備も上手くなっていて。大学の時も上手かったけど、肩も強くなっていて、凄い球投げていました」と“凄い”を連発するほど感激していた。「絶対(指名が)かかって欲しいとめちゃくちゃ思います」と井上選手の1年越しの夢を心から応援し、自分のことのように夢中になって話してくれた。

 仲田選手にとって井上選手は「ライバルでありながら、お互い意識しあって、高め合える存在。特別な存在です。井上が活躍していたら、自分も負けたくないと思うし、でも嬉しい。めちゃくちゃ刺激です」と生き生きした瞳で語ってくれた。努力で這い上がってきた仲田選手がここまで言うのだ。それだけでも井上選手の魅力、熱量が伝わってくる。

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