文春オンライン
「甲子園で流れた『キセキ』は我々の演奏ではない」聖光学院ブラスバンド部が「美談」を求める高校球界へ投げかける一言《野球部との“対等で新しい関係性”を模索》

「甲子園で流れた『キセキ』は我々の演奏ではない」聖光学院ブラスバンド部が「美談」を求める高校球界へ投げかける一言《野球部との“対等で新しい関係性”を模索》

#2

2022/09/17

genre : ニュース, 社会

 甲子園のブラバン応援における二大巨頭といえば、千葉の市立習志野と大阪桐蔭だろう。高校野球の名門である両校だが吹奏楽部も名門で、全日本吹奏楽コンクールにおける金賞の常連校でもある。

 習志野の吹奏楽部が球場で奏でる荘厳な音楽は「美爆音」と自称し、相手校のナインを聴覚から威圧する。吹奏楽部の石津谷治法教諭連盟理事長で、日本の高校吹奏楽界の名伯楽である。かつて私の取材にこう話していた。

「習志野の演奏を5万人近い観客に聴いてもらえる舞台なんて、日本どころか世界中を探してもありません。ブラバンは野球における勝負の命運を握っていると思います。勝てば選手のおかげ、負けたらブラバンのせいです」

ADVERTISEMENT

 近年の高校野球界で随一の存在感を放つ大阪桐蔭の吹奏楽部は、オリジナルの楽曲や最新のヒット曲を演奏するアルプス応援が人気で、昨年の大晦日にはとうとうNHKの紅白歌合戦に出演するまでに。吹奏楽部顧問の梅田隆司教諭も業界の有名人だ。

聖光学院ブラスバンド部の部員は現在3人 ©柳川悠二

 大所帯の名門吹奏楽部でも、甲子園や地方大会の応援にはコンクールに出場しない“二軍”を動員する学校もあるが、両校の教諭は同じような言葉を口にする。

「うちはコンクールよりも、野球部の(甲子園)応援を優先しています。できる限り、全部員が参加して演奏したい」(石津谷教諭)

「僕のポリシーは、部員全員で演奏したいということ。コンクールのメンバーはどうしても数制限がある。僕は生徒を選ぶのが嫌だから、部員全員が参加できる甲子園の応援を大事にしているんです」(梅田教諭)

甲子園応援は全校生徒590人中50人ほど

 コンクールより甲子園応援を優先する吹奏楽部がある一方で、部員5人の福島・聖光学院ブラスバンド部が、演奏会の準備のために2回戦以降の応援を取りやめたことは甲子園の中継でも報じられた。

右から東海林梨奈さん、寺島愛日さん、助っ人メンバーの神野彪さん ©柳川悠二

「甲子園と演奏会のどちらを優先するか、という話ではないと思っています。あえて言えば生徒の意志優先というのが私のスタンス。それがブラスバンド部の生徒を預かる顧問としての務めかなと思います」

 顧問の梅野和生(かずき)教諭はそう語るものの、現実的には演奏会の日程調整などでは決断が必要だった。

 聖光学院のアルプス席はいつも閑散としている印象がある。この夏も全校生徒590人のうち、甲子園応援を希望して参加したのは約50人だった。

関連記事