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開業150年 鉄道、生活、ITで成長を目指す

文藝春秋創刊100周年記念 トップインタビューVol.11

PR提供: JR東日本

分割民営化から35周年の節目でもある今年、「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」へと経営ビジョンの大転換を図るJR東日本。その数々の「挑戦」に、『文藝春秋』編集長・新谷学が迫る。

深澤祐二氏

JR東日本代表取締役社長

新谷 学
聞き手●『文藝春秋』編集長

「変革2027」で価値、サービスの創造へ

新谷 今月で、鉄道開業から150年ですね。

深澤 新橋と横浜の間を初めて走ったのが、明治5年10月14日でした。鉄道は、日本社会の基盤を支えるために、先人たちが営々と築き上げてきたインフラです。その歴史をしっかり認識し、矜持をもって受け継ぐ覚悟です。

Yuji Fukasawa
1954年北海道生まれ。 ’78年東京大学法学部 卒業後、日本国有鉄道に入社。杉浦喬也総裁の 秘書などを務める。 ’87年の分割民営化で 東日本旅客鉄道(JR東日本)に入社。 投資計画部長、取締役人事部長、副社長などを 歴任し、2018年より現職。
Yuji Fukasawa
1954年北海道生まれ。 ’78年東京大学法学部 卒業後、日本国有鉄道に入社。杉浦喬也総裁の 秘書などを務める。 ’87年の分割民営化で 東日本旅客鉄道(JR東日本)に入社。 投資計画部長、取締役人事部長、副社長などを 歴任し、2018年より現職。

新谷 JR東日本としても、民営化35周年という節目です。

深澤 35年前は、鉄道の危機とまで言われました。しかし他のJR各社も含めて、鉄道の再生復権を形作ってこられたと考えています。

新谷 我々『文藝春秋』も創刊100周年で、国民雑誌と呼ばれたレガシーは自負しています。とはいえ、歴史に胡坐をかいて生き残れる時代ではありません。

深澤 世の中が変化すれば、転換しなければいけませんね。我々のようなドメスティックなインフラ企業にとっては、人口減少による輸送ニーズの落ち込みが一番の課題です。

 そこで、非鉄道事業の比重を高める努力をしています。民営化時は鉄道の収入が9割を占めていましたが、現在は6割まで下がりました。将来的には5対5にするのが目標です。

新谷 失礼ながら「一番風呂には入らない」と揶揄されるように、JR東日本と言えば慎重で、安定を好むイメージでした。それが深澤社長の就任以来、チャレンジングな改革をたくさん打ち出しています。

深澤 2018年に社長になって、グループとしての経営ビジョン「変革2027」を作りました。「鉄道を起点としたサービスの提供」から、「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」への転換を打ち出したんです。

新谷 従来の、鉄道を中心とする輸送サービス。駅ビルやエキナカ、ホテルなどの生活サービス。ICカード「Suica」が中心のIT・Suicaサービス。この三つをオーバーラップさせ、新しい価値やサービスを生み出す成長戦略が「変革2027」ですね。

エキナカの概念を変えたecute。「駅(eki)を中心(center)に、あらゆる人々(universal)が集い(together)楽しむ(enjoy)」場所の頭文字からなる造語で、首都圏主要駅に設置(写真は東京)。
エキナカの概念を変えたecute。「駅(eki)を中心(center)に、あらゆる人々(universal)が集い(together)楽しむ(enjoy)」場所の頭文字からなる造語で、首都圏主要駅に設置(写真は東京)。

深澤 はい。業績は順調に伸びていたんです。しかし2019年10月、台風19号による豪雨で長野県の千曲川の堤防が決壊して、北陸新幹線の車両基地が浸水する被害を受けました。そのあと、コロナが流行り始めて。

新谷 コロナ禍で、民営化してからはじめて二期連続赤字の計上ですね。

深澤 コロナ以前は、支社や現場を回って変革の必要性を訴えても、「大きな流れとしてはわかるけど、お客さまは現にたくさんいらっしゃるし、何をすればいいのか」という雰囲気がありました。ところが目の前から、お客さまがパッタリいなくなってしまった。

 それでも我々は、列車を走らせなくてはいけません。こうした状況で自分たちは何をすべきかと考える意識は、個々の社員にもグループ全体にも、この2年間で根付いたと感じます。

新谷 たとえば北海道新幹線で、函館の海産物や駅弁を東京へ輸送しています。揺れが少ないので、ストレスに弱いイカも生きたまま届くとか。

深澤 コロナ禍でお客さまが激減し昨年4月から、業務用の空きスペースを使って始めましたが、大きなニーズがあるとわかりました。

新谷 ヒト起点の「変革2027」が、コロナによって加速されたわけですか。

深澤 鉄道の収入は、人口やGDPをベースにして少しずつ増減するのが、いままでの歴史でした。それが、これほど劇的に変動してしまう。コロナはいずれ収束するでしょうけど、新たなパンデミックや災害に、いつ襲われるか分かりません。突然の変動に耐えられる仕組みを、作っておく必要があるんです。

「ESG経営」で地方創生に貢献

新谷 その北海道新幹線の札幌延伸は、2030年度に予定されています。

深澤 はい。我々もそのための準備を進めています。たとえば「ALFA−X」という試験車両を使って、次世代新幹線の検討を重ねています。乗車時間が長くなるので、到達時間の短縮と同時に快適性を追求しなければいけません。

2030年度の北海道新幹線札幌延伸時に投入を目指す次期営業車両へ成果を適用するため、走行試験を重ねる次世代新幹線試験車両「ALFA-X」。
2030年度の北海道新幹線札幌延伸時に投入を目指す次期営業車両へ成果を適用するため、走行試験を重ねる次世代新幹線試験車両「ALFA-X」。

新谷 都心と結ぶ「羽田空港アクセス線」の建設も注目されていますね。乗り換えなしで東京駅から約18分、新宿駅から約23分で結ばれ、かなり便利になります。

深澤 計画は順調に進んでいて、どのタイミングで着工するかという段階です。空港の下は国の事業ですから、我々の事業とどう接点を作っていくか、調整しています。

新谷 効率化の面では、自動運転や時間帯別運賃の導入の検討を進めるほか、終電を繰り上げました。

深澤 鉄道事業は、コスト構造も制度も非常に固定的なんです。それに伴って我々の考え方も固定化しやすいので、それらを柔軟化していこうというのがコンセプトです。

新谷 ラッシュ時以外の使用で値段が安くなる「オフピーク定期券」の導入は、どういった狙いですか。

深澤 コロナで「三密」が気になるお客さまにとって、混雑は分散したほうがメリットがあります。我々にとってもコスト削減になります。しかし、通勤定期代を負担している企業にもメリットがなければ、オフピーク通勤は浸透しません。そこで必要なのは、オフピーク定期券だと考えたわけです。

新谷 お盆や年末年始の繁忙期を分散させる「季節のオフピーク」も課題ですね。飛行機は季節によって運賃が変わるのに、鉄道は一定です。

深澤 ダイナミックプライシングと言えるレベルまで差をつけたいのですが、いまの制度の中では実現が難しいため、運賃・料金制度を見直してくださいという話を、国交省と進めています。先日の中間報告で、より柔軟にしていきましょうという方向性を出していただきました。

新谷 「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」を重視する「ESG経営」にも、力を入れています。

Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『Number』他を経て2012年『週刊文春』編集長。 ’21年7月より現職。
Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『Number』他を経て2012年『週刊文春』編集長。 ’21年7月より現職。

深澤 鉄道はそもそも環境にやさしい乗り物ですが、グループ全体で2050年度のCO2排出量「実質ゼロ」に挑戦しています。ESGでは地方創生への貢献にも力を入れて、地域の活性化や観光振興、駅を中心としたまちづくりに取り組んでいます。

新谷 一方、赤字ローカル線の問題では、残して欲しいという要望が各地で起こっています。

深澤 鉄道はネットワークなので、一定の維持が前提です。これまで、首都圏と新幹線の利益で地方とローカル線の赤字をカバーしている、と言われてきたのはその通りなんです。ところがこの35年で、地方の人口減少は想定より進んでいるのが実態です。

新谷 路線ごとの収支を積極的に開示して、地域交通の在り方について議論を喚起していますね。

深澤 鉄道はある程度ご利用いただかないと、とても非効率なシステムなんです。そうなれば、ほかのモビリティに替えることも考えるべきです。その議論をするために、情報開示は必要です。

新谷 路線バスや、線路を専用道に変えてバスを走らせるBRT(Bus Rapid Transit)への転換もそのひとつですか。

深澤 はい。東日本大震災からの復興では、各自治体のまちづくりと関連して、いろいろなパターンを提案してきました。しかし自然災害が起こらなくても、議論をするタイミングだと思います。いまやっておかないと、将来に禍根を残します。

新谷 深澤社長ご自身が関わってきたインド高速鉄道プロジェクトをはじめ、海外事業をいくつも積極的に展開しています。

深澤 日本の鉄道は150年間、たくさんのメーカーに支えられてきました。ところがこの先、国内に新しい鉄道を作る機会はほとんどありません。鉄道産業全体の将来を見据えれば先細りですから、必要とされる場所へ出ていくことが大事です。

新谷 ニーズは、アジアにあるわけですね。

深澤 いままで我々が関与してこなかったので、ヨーロッパの鉄道会社が進出しています。このタイミングを逃すと、東南アジアの鉄道はすべてヨーロッパの規格で出来上がってしまい、日本の出る幕は完全になくなってしまいます。特にアジアの都市鉄道が、これからの主戦場で重要になります。

 「安全」の継承がグループ全体の信頼に

新谷 非鉄道事業では、約9000万枚も発行されている「Suica」のプラットフォーム化に大きな成長が見込めそうです。

深澤 鉄道でのご利用だけでなく、決済手段としてさらに広げていかなければなりません。共通基盤化を進めて、決済・認証の機能をさらに充実させます。飛行機やバス、カーシェアリングなど複数の交通手段を一括で検索・予約・決済できる「MaaS(Mobility as a Service)」の実現にも取り組んでいます。 

新谷 「駅は切符を売るためだけの場所ではなくて、ビジネスを生み出す場所だ」とおっしゃっていました。

深澤 駅というインフラを多く持っているのに、十分活用できていません。チケットレス化が進めば、みどりの窓口や券売機のスペースが要らなくなります。では何をするか、個々の駅で働く社員に考えてもらっています。たとえば老舗の和菓子屋さんにご協力いただきお饅頭を販売すれば、町との繋がりができるし、手数料もいただけるでしょう。不動産ビジネスも、5対5を実現するために大きなポジションを占めます。

新谷 想像以上にきめ細かく、多彩な手を打っていますね。

深澤 打ち手は多いのですが、ビジネスになるには、もうちょっと頑張らなきゃいけないなという感じですね。

新谷 企業理念の根幹に置かれているのは「究極の安全」です。最後に、安全に対するお考えを教えてください。

深澤 JR東日本の発足以来、事故は確実に減っています。ということは、失敗を経験していない社員が増えているわけです。非鉄道の事業が広がったので、安全という感覚と直結しない仕事に従事する社員も増えています。だからこそ、継承が大切です。究極の安全を目指す姿勢は、鉄道以外の事業分野も含めて、JR東日本グループ全体への信頼に繋がると考えています。


Text: Kenichiro Ishii
Photograph: Miki Fukano