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《日本人が知らない中国共産党》末端組織が「生活者の愚痴」を吸い上げる“手強い”社会システム

2022/10/15
note

組織を支える末端党員の正体とは? 文化学園大学准教授・西村晋氏による「あなたの知らない中国共産党」(「文藝春秋」2022年11月号)を一部転載します。

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「中国崩壊論」の誤り

 今世紀に入り、わが国では中国崩壊論が何度となく流行してきた。その一部はそれなりに説得力のある理由があるにもかかわらず、現時点まで将来予測に何某かの役に立った例がない。それはなぜか。

 その最大の理由は、日本人が現代中国を支える中国共産党(以下、党もしくは中共)の中央ばかりを観察し、末端組織や一般党員の姿を殆ど無視してきたからである。

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 中国崩壊論は次の様な思考法で作られがちである。(1)中国は寡頭的な専制体制である。(2)寡頭的な独裁であるから社会の末端で発生した問題を把握できない。(3)或いは、問題を把握できたとしても硬直的な体制ゆえに、或いは多元性に欠ける体制ゆえに、現場の力を動員できずに問題解決の手段を解っていたとしてもそれを実行できない。つまり、中国が寡頭的で、しなやかではない体制であることや、現場を軽視した支配をしているといったことを前提に組み立てられているものが典型的な中国崩壊論である。

 実のところ、中国社会の末端、職場や地域などには各種の自治組織や会議体・合議体が備えられている。また、それらの自治組織と密接に関係していたり、重複する役割を持っていたりするのが、これから解説する中共の基層党組織である。これは政府が社会の末端を統括するための手間や予算を節約するという側面もあるが、同時に、社会の末端の現状や問題を把握する耳目や、社会の末端で改革を実行させるための手足ともなる。

アリババ創業者も党員だった

 現代中国が様々な問題を抱えていることは否定のしようがなく、中国の体制を翼賛するつもりは全くない。だが、肯定するにせよ、批判するにせよ、草の根の大衆や現場からのボトムアップと、一党独裁が巧みに組み合わされた中国式統治システムの「手強さ」を無視するべきではない。

 筆者は2012年から9年間、中国内陸の河南省の大学に勤務していた。周囲の同僚の過半が共産党員であり、大学の中には共産党組織が備えられていた。そして、担当した学生の少なからずが入党に向けて種々の学習や活動をしていた。中国で暮らし、また、日系企業ではなく中国人に雇われていれば、職場などで共産党の末端組織や末端幹部や一般党員に触れる機会が必ずある。これは私だけの特別な経験ではなく、中国の企業や学校で働く機会さえあれば誰でも体験できる、ごくありふれたものだ。

 日本ではあまり注目されていないが、中国社会で必要不可欠な役割を果たしている党の末端組織の活動について解説しよう。