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有楽町の一画にあるルドンといふこの凡庸な喫茶店は、戦後に開店していつかしらその道の人たちの倶楽部になつたが、何も知らない客も連れ立つて入つて来て、珈琲を飲んで、何も知らないまま出て行くのだつた。

店主は二代前の混血を経た四十格好の小粋な男である。みんながこの商売上手をルディーと呼び慣はしてゐる。

(三島由紀夫『禁色』)

裸体に豹の毛皮を巻き付けて歌い踊る

「ブランスウィック」は、『禁色(きんじき)』に登場するゲイバー「ルドン」のモデルとなった店である。当時としては珍しく、一階から二階までガラス張りで、二階には、怪しげな南米風ムードがただよっていた。真紅のビロードのボックスには豹の毛皮がおかれ、ささやかな三階のフロアに通じる金の手摺(てす)りの階段が設けられていて、夜の帳がおりると、フロアショーが催された。

“ケリー”と呼ばれているマスターは、派手な背広を着て、コールマン髭を生やしたラテンの混血系らしい四十男だった。

ケリーは、明宏が応募してきたことをとても喜んだ。

「明日からきて欲しい。歌手志望なら、フロアで歌ってもいいよ」

店には、“バレエさん”というバレエを習っているボーイがいた。バレエさんのフロアショーが終ると、明宏は彼から衣裳を借りた。明宏は、裸体に豹(ひょう)の毛皮を巻きつけて、頭には金のターバン、手足には鈴という格好で、歌い踊った。

とし若い踊り子がひとり、妖精めいて浮かびあがった。のびやかな脚にバレエ・シューズを穿き、引緊った胴から腰にかけては紗の布を纏いつけたという大胆な扮装で、真珠母いろの肌が、ひどくなまめかしい。

(中井英夫『虚無への供物』)

「可愛くない子だな」の返しに唖然

三島は、「ブランスウィック」の上客だった。

いつものように編集者を連れてやってきた三島は、新入りの美少年に目をとめた。

「おい、丸山。三島先生が君を呼んでるぞ。入店早々、凄いじゃないか」

明宏は、ケリーの言葉を無視した。