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現役世代には職場復帰を、終末期には希望の光を。スーパードクターの考える、リハビリが目指す“ゴール”とは?

2022/11/28

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脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)は、治療の進歩により、いまや必ずしも死に至る病ではない。しかし、治療後も脳の損傷部位や程度によって、さまざまな後遺症が残ることが多い。その後遺症に対する重要なアプローチがリハビリテーションだ。

取材・文◎大内ゆみ

稲川利光
令和健康科学大学リハビリテーション学部長・教授
カマチグループリハビリテーション関東統括本部長
原宿リハビリテーション病院 兼務
東京品川病院リハビリテーション科 兼務
いながわ・としみつ 理学療法士として勤務後、医師に。1993年香川医科大学(現香川大学医学部)卒。NTT東日本伊豆病院、NTT東日本関東病院リハビリテーション科部長を経て、2018年原宿リハビリテーション病院筆頭副院長。22年より現職。リハビリテーション科専門医・指導医、医学博士。

急性期の早期離床が機能回復・社会復帰への鍵

 かつて、安静が第一とされていた脳卒中だが、現在では治療と並行して、リハビリテーション(以下、リハビリ)が開始されることが多い。

「この早期からのリハビリが、その後の心身機能の回復、そして社会復帰に大きく影響します」と話すのは、急性期から在宅までリハビリ診療の経験をもつリハビリテーション科専門医・指導医の稲川利光医師だ。

 急性期のリハビリには患者の状態に合わせていろいろなアプローチがあるが、特に重要なのが早期離床だと稲川医師は強調する。

「寝たきりでは、たった1日でも筋肉の萎縮や関節の拘縮が進んでいきます。そのため、血圧などの状態が安定したらすぐに、ベッドの上で寝返りをする、起き上がってベッドに腰かける、そして立ち上がるといった離床を促すことがリハビリの要となります。そこから、車椅子での移動、歩行など、どんどんとできる動作が広がっていく。そして、食事や着替えなどの日常生活動作(ADL)へとつながるのです」

■脳卒中(主な後遺症)

・意識障害
・運動機能障害(片麻痺、運動失調など)
・構音障害
・摂食・嚥下障害
・自律神経障害(便秘、失禁など)
・高次脳機能障害(失語、失認、失行、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など)
・感覚障害(しびれ、痛みなど)
・精神症状(抑うつ、不安、感情失禁など)

 さらに急性期では、活動性の低下による胃炎、便秘などの胃腸障害や褥瘡(床ずれ)、意識レベルの低下による誤嚥(食べ物や唾液などが食道ではなく気管に入ること)や呼吸状態の低下で肺炎が起きやすくなる。早期離床は、これらの合併症の予防としても重要だという。

 急性期では生命の危機状態を脱し、病状が安定すれば退院となる。そのまま社会復帰できるケースもあるが、それが難しい場合、専門的なリハビリを行う回復期リハビリ病院への転院が考慮される。

「回復期リハビリ病院では、専門的なリハビリに加え、生活行為そのものがリハビリとなります」と稲川医師。専門的なリハビリは1日最大3時間。運動能力の回復を目指す理学療法、飲み込みや発語の能力を改善する言語聴覚療法、生活に必要な動作を獲得する作業療法などを組み合わせて、個々に合ったプログラムで行われる。病室では看護師やリハビリスタッフの適切な介助のもと、食事、着替え、排泄、入浴などのADLの自立を目指す。

 しかし、回復期リハビリ病院の入院期間は、脳卒中の場合最大180日(障害により異なる)と限度がある。回復期リハビリのゴールをどう捉えるか。稲川医師はこう答える。

「自宅や施設で自立した生活ができることが理想的ですが、機能の回復には限界があり介護が必要なケースもあります。その場合、介護を含め生活の環境が整うことがゴールだといえます。また、現役世代では復職も重要な目標です」

 そのため、入院している時から本人や家族の希望に添って、退院後の生活を見据えた各機関との調整も必要となる。訪問看護・介護・リハビリなどの各種サービス、就労支援など、各機関との連携体制が整った病院を選ぶことも重要だろう。その際は、回復期リハビリ病院が公表している在宅復帰率が目安のひとつになる。

回復期から維持期へ 心と生活を広げるリハビリ

 さらに回復期リハビリの重要な役割として、高次脳機能障害へのアプローチがあるという。高次脳機能障害とは、脳の損傷により起こる認知機能(言語・記憶・行動・学習・注意)や精神機能の障害だ。

「高次脳機能障害は、本人が自覚しにくく、医療者や家族も見逃しやすい。そのため、社会復帰しても周囲との関係が悪化したり、以前と同じように仕事ができなくなったりするなど、生活に大きな支障を来します。この高次脳機能障害をできる限り早期に発見し、リハビリを開始することが重要です」

 高次脳機能障害の各症状に対するリハビリにより、長い年月を要するものの、改善が期待できるという。

 退院後は、主に介護保険を利用して訪問や通所でのリハビリを受けることが可能だ。

「多くの場合、退院してからの期間のほうがはるかに長い。維持期のリハビリの目的は、障害が残っていても、生活を広げていくことです」

 しかし、それには患者さんの心にも配慮が必要だと稲川医師は言う。

「障害により、人生に希望が持てなくなる人もいます。それでも何らかの希望の光があるはずです。急性期、回復期から、体だけではなく、患者さんの心を動かし、生きるための意欲を引き出せるようにかかわっていく。それを維持期につなげることが大切だと考えています」

 リハビリは人生の最期を迎えるまで、私たちの生活を支えてくれる医療だ。脳卒中に限らず、人生において何らかの障害をもつ可能性は高い。健康なときから、自分にとって大切なことは何か、考えておくことも重要だと稲川医師は話す。

「私が多くの患者さんから学んだのは、リハビリはその人の生き方そのものだということ。リハビリは今から始まっているのです」

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