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「書くのは苦しいですよ。でも…」将棋のプロである棋士・女流棋士が“観戦記”を書く理由とは

「書くのは苦しいですよ。でも…」将棋のプロである棋士・女流棋士が“観戦記”を書く理由とは

勝又清和七段×藤井奈々女流初段 観戦記者対談 #1

2022/11/11

 第34回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門において、藤井奈々女流初段が執筆した《第34期竜王戦七番勝負第3局 藤井聡太―豊島将之(読売新聞)》が優秀賞を受賞した。藤井女流初段は、1998年生まれの24歳。まだ20代前半の女流棋士が、ベテラン執筆陣が多い観戦記部門で受賞するのは前例のないことだ。

 そんな藤井女流初段、そして20年以上にわたって棋士の立場から観戦記を執筆している勝又清和七段に、観戦記者の仕事ぶりや観戦記のあり方を聞いていきたい。

「(藤井女流初段は)娘と同じ歳なんですよ」と笑う勝又七段。「藤井さんと私の観戦記の棋風は、居飛車と振り飛車くらいちがう」というお二人に、まずは「観戦記とはどういうものか」から教えていただこう。

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観戦記は、決められた分量で書かなくてはいけない

――まず、将棋の「観戦記」とは、どういうものか教えていただけますか。

勝又 これは将棋の歴史とも関係してきますが、将棋はもともと徳川幕府の庇護のもとに始まっています。その後、スポンサーを失った将棋界を支えたのが新聞社で、新聞は将棋の観戦記を載せることで部数を伸ばしていきました。有名なのが阪田三吉と木村義雄の「南禅寺の決戦」(1936年)ですよね。

――つまり、「観戦記」といえば、新聞に掲載されるもので、ネットや雑誌媒体などに掲載される観戦レポートとはちがうと。

勝又 ネットなどに書くのは、文章量の制約がないなど、観戦記とは全然ちがうものという認識ですね。観戦記は、決められた分量でやらなくてはいけませんから。

――観戦記のルールを教えていただけますか?

勝又 最初に、何回に分けて掲載するのかを決めるわけです。それは棋譜の長さによってもちがうので、担当記者の方から「今回、何譜でお願いします」と言われます。

 

ウェブに書く観戦レポートとはまったく違う

――何回というのを「何譜」というわけですか。

勝又 そうですね。棋譜の「譜」です。その数に応じて棋譜を選びます。

――だいたい何譜が多いんですか?

勝又 普通の将棋ですと5から7ですが、これは私が担当している産経新聞の棋聖戦の場合。他紙はちがうし、これがタイトル戦になると、藤井奈々さんが書いたように長くなる。

――藤井さんが書かれた竜王戦の観戦記は14譜ですね。

藤井 タイトル戦は、12譜というのが通例のようですが、このときは対局場が新しい場所だったので「14譜でお願いします」と言われました。

――つまり「観戦記」というのは、この譜面の数の制限と、文字数の制限があるわけですね。そういったところがウェブに書く観戦レポートとはまったくちがうと。

勝又 そうですね。まったくちがいます。