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【スーパードクター2023】保険適用の拡大で重粒子線治療が身近に。豊富な経験を踏まえ最善の治療を提案

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院

2022/11/28

放射線医学の研究所に併設された病院として、重粒子線によるがん治療をリードしてきたQST病院(旧放医研病院)。四半世紀にわたる研究と治療の実績があり、1万4000例以上の治療を手掛けてきた。重粒子線治療は2022年4月から新たに5つのがん種に保険が適用され、身近な治療になりつつある。

病院長
山田 滋
1985年三重大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線治療専門医。専門は放射線腫瘍学、消化器がん。

他の放射線にない優位性で新たに5疾患に保険が適用

 放射線医学総合研究所の病院部として設立された当院は、1993年に世界初の医療用重粒子線治療装置(HIMAC)を開発し、重粒子線によるがん治療をリードしてきました。重粒子線の一番の特徴は、病巣で最大のエネルギーを放出して止まり、その奥にある正常組織に影響を及ぼさないこと。副作用を最小限に抑えつつ、病巣に高い線量を集中させることが可能です。また、肉腫や腺がんといった通常の放射線(X線)が効きにくいがんにも有効で、治療期間が短いというメリットもあります。

 2003年に先進医療として承認されて以来、さまざまながんに対して良好な治療実績を積み重ね、16年に骨軟部腫瘍、18年に頭頸部腫瘍と前立腺がんが保険適用となり、さらに22年4月には局所進行性膵がん、大きな肝細胞がん、肝内胆管がん、大腸がん術後再発、子宮頸部腺がんに拡大されました。患者さんの金銭的な負担は大きく軽減し、当院でも保険で治療を受ける方が増えています。

研究の成果を治療に反映 さらなる技術発展を目指す

 新たな技術の開発や臨床研究も当院の重要な使命です。複雑な病巣の形状や呼吸による変化に合わせることができる「3次元高速スキャニング照射法」や、最適な角度からピンポイントに照射できる「回転ガントリー治療装置」を開発。より精度が高く、より副作用の少ない重粒子線治療を実現してきました。

回転ガントリー装置の外観
回転ガントリー装置の外観
治療室内部
治療室内部

 免疫療法と重粒子線治療の併用療法、早期乳がんの重粒子線治療、照射回数や治療期間の短縮など、さまざまな臨床試験も進行中です。「さらに治療効果を高め、もっと多くの患者さんに届けたい」を目標に、腫瘍の性状に合わせた粒子を組み合わせて照射するマルチイオン照射法や一般の病院で導入しやすいように小型化した装置を開発する量子メスプロジェクトにも取り組んでいます。

 重粒子線治療は特殊な治療と考えられがちですが、保険が適用されるがん種が増え、治療の機会が大きく広がりました。手術が困難、従来の放射線治療が効きにくい場合でも、根治的な治療ができる可能性もあります。電話相談窓口も設けていますので、ぜひご利用ください。

各領域の専門医が揃い、安全安心な治療を提供する
各領域の専門医が揃い、安全安心な治療を提供する

通常の放射線が効きづらいがんに効果[頭頸部がん]

小藤 昌志
1996年東北大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線科専門医。専門は放射線腫瘍学、頭頸部腫瘍。

 脳や目、鼻、口といった重要な器官が集中している頭頸部は、機能や形を大きく損なうことなく根治をめざす放射線治療が得意とする領域です。とくに重粒子線は病巣に高い線量を集め、周囲の正常組織への影響を抑えることが可能です。さらに通常の放射線(X線)が効きにくい非扁平上皮がんなどに効果が期待できることも、重粒子線治療の強みと言えると思います。現在、手術ができない頭蓋底腫瘍、頭頸部と眼窩の非扁平上皮がん、粘膜悪性黒色腫、鼻副鼻腔と外耳道の扁平上皮がん、頭頸部肉腫に保険が適用されています。

 治療期間は約4週間で、治療部位以外の体への負担はほとんどありませんので、高齢や合併症などで放射線と抗がん剤を組み合わせる標準治療が難しい場合も、重粒子線治療であれば実施できることがあります。頭頸部がんの多くは希少がんですが、当院は30年近く積み重ねてきた経験と実績があり、また常に新たな技術の研究開発にも取り組んでいます。これまで根治を諦めていた方に、希望となる医療を提供したいと考えています。

喉や鼻の診断に欠かせない内視鏡検査
喉や鼻の診断に欠かせない内視鏡検査

肺機能が悪くても根治的な治療が可能[肺がん]

中嶋 美緒
2001年信州大学医学部卒。日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医。専門は放射線腫瘍学、肺腫瘍。

 早期の肺がんの治療は、根治的な手術が第一選択になります。一方、高齢や基礎疾患があるなどの理由で手術ができない時は、体への負担が軽い放射線治療が行われることも少なくありません。肺がんの8割以上を占める非小細胞がんは放射線が効きやすく、手術に近い好成績を収めています。

 とくに重粒子線は、従来の放射線よりも照射範囲を絞り込むことができ、肺や周辺組織に対するダメージが少ないため、間質性肺炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺気腫などの合併症で肺機能が低下していても、比較的安全に治療することが可能です。照射による苦痛はなく、早期であれば一日で終了し、日常生活への影響もほぼありません。

 なお当院では、早期がんだけでなく局所進行がんに対しても、根治目的の重粒子線治療をしています。また一部の転移性肺腫瘍や転移性リンパ節腫瘍も治療の対象となります。

 いずれも現在は先進医療の枠組みで実施し、保険適用をめざして着実に治療成績を積み上げています。

検査画像を使ってわかりやすく説明
検査画像を使ってわかりやすく説明

周辺臓器への副作用を大幅に軽減[前立腺がん]

石川 仁
1995年群馬大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線科専門医。専門は放射線腫瘍学、粒子線治療全般。

 前立腺がんに対する重粒子線治療は、リンパ節や骨などへの転移がなく前立腺に限局している場合の根治的な治療に保険が適用されます。早期なので手術はもちろんのこと、放射線治療も小線源治療、X線や粒子線による外照射などさまざまな治療から選ぶことができますが、治療成績には大きな差がなく、迷う方も少なくありません。

 重粒子線は外照射の中で病巣周辺の正常臓器に照射される範囲や線量が最も少なく、直腸や膀胱に生じる副作用を大幅に抑えることができます。特に糖尿病を合併していたり抗血栓薬を服用しているなど、副作用のリスクが高い方には適した治療です。また「腫瘍の大きさによる影響をさほど受けずに治療できる」「照射回数や治療期間が他の外照射の半分以下で済む」という特徴もあります。当院では4000例以上の治療実績に基づき、さらなる副作用の軽減や治療の短期化にも取り組んでいます。

 患者さん自身が病状を理解し、しっかり検討した上で自分に合った治療を選択することが大事。より良い結果を出すために、私たちも精一杯サポートしていきます。

治療の選択に必要な情報を提供
治療の選択に必要な情報を提供

手術困難な場合は重粒子線が保険適用[骨軟部腫瘍]

今井 礼子
1994年群馬大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線科専門医。専門は放射線腫瘍学、骨軟部腫瘍。

 骨軟部肉腫は希少がんの一つで、骨や血管、脂肪などから発生します。生活習慣とは関係なく、幅広い年齢層に見られます。転移がなければまず手術を検討しますが、腫瘍が大きい、あるいは重要臓器に接している、手術による機能の損失が大きい、高齢や基礎疾患があって手術に耐えられないといった場合には、重粒子線治療が有力な選択肢になります。骨軟部肉腫は通常の放射線(X線)が効きにくいがんの代表格ですが、重粒子線は効果が期待でき、2016年に最初に保険が適用されました。また、消化管に近接していて照射が困難とされていたケースでも、スペーサーといわれる医療材料を外科的に腫瘍と消化管の間に入れることで(19年に保険適用)、消化管への影響を抑えながら十分な線量を照射できるようになるなど、治療の可能性が広がっています。

 骨軟部肉腫は希少がんであるだけでなく、さまざまな組織型があり、個々人の患者さんに沿った情報が得にくい病気です。当院にも電話相談やセカンドオピニオン外来がありますので、ご利用いただければと思います。

明るく開放的な新治療研究棟のホール
明るく開放的な新治療研究棟のホール

大型肝細胞がんの粒子線治療が保険適用[肝がん]

若月 優
2002年群馬大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線科専門医。専門は放射線腫瘍学、婦人科腫瘍。

 従来、肝細胞がんはウイルス由来の肝炎からの発症が多くを占めていましたが、近年はウイルスに関係なく発症し、大きくなった状態で見つかるケースが増えています。転移が見られない肝細胞がんの標準治療は、手術や経皮的ラジオ波焼灼療法、血管内治療ですが、がんが大きいと根治的な治療ができないこともあります。

 2022年4月からこうした手術が困難な大型(4cm以上)の肝細胞がんに対する粒子線治療が保険適用となりました。重粒子線は病巣に高い線量を集められるので、大きながんでも効果的に治療することが可能です。当院における3年局所制御率は85~90%。生存率でも従来の放射線治療よりも良い成績を示すことができたため、今回保険が認められました。

 肝がんの患者さんの多くは肝機能が悪いため、より低侵襲でより肝機能を温存できる重粒子線治療の役割は小さくありません。できるかぎり根治に結びつけられるよう、千葉大学の消化器内科や肝胆膵外科などとも連携し、他の治療も総合的に検討した上で最適な治療を提案しています。

病態に即した緻密な治療計画を作成
病態に即した緻密な治療計画を作成

手術できないがんに重粒子線が保険適用[膵がん]

篠藤 誠
2003年九州大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線科専門医。専門は放射線腫瘍学。

 遠隔転移がない膵臓がんは手術が最も根治性の高い治療ですが、高齢や合併症、あるいは動脈にがんが浸潤しているなど、手術ができない場合も少なくありません。2022年4月から、手術による根治的な治療が困難な局所進行性膵臓がんに粒子線治療が保険適用となり、より多くの方が治療を受けられるようになりました。

 膵臓がんは放射線が効きにくい上に、周囲を消化管などに囲まれているため、従来の放射線治療ではがんを制御できるほどの高線量を安全に投与するのは困難でした。一方、重粒子線は体内での散乱が少なく、より狭い範囲に線量を集中させることができるため、周囲への影響を最小限に抑えつつ高い線量を照射することが可能です。

 局所にとどまっているように見えても目に見えない小さな転移があることが多いので、根治性を高めるために全身療法の抗がん剤を組み合わせるなど、地域の病院と緊密に連携しながら治療を進めています。膵臓がんのような難治がんでも根治に繋げることができるよう、最善の医療を提供していきます。

保険適用以降、治療の相談が急増
保険適用以降、治療の相談が急増

術後局所再発の根治的治療に保険が適用[大腸がん]

瀧山 博年
2008年東京大学医学部卒。日本外科学会認定専門医。専門は外科学、放射線腫瘍学。

 2022年4月から大腸がんの術後局所再発の粒子線治療に保険が適用され、金銭的な負担が大きく軽減されました。

 大腸がんはほかの多くのがんと違って、術後に再発や転移をしても手術や放射線で局所的な治療をすることによって根治が期待できるという特徴があります。しかし骨盤内に再発した場合は手術が難しく、また放射線に弱い腸や膀胱があることから従来の放射線ではがんを治し切れるほどの十分な線量は照射できないのが実情でした。一方、重粒子線は周囲の正常組織への障害を抑えながら、病巣に高い線量を集中させることが可能。病巣が腸と接していても、手術で特殊なシートを挟み込んでから照射を行うことで、副作用を極力減らせるようになりました。

 これまでに当院で治療した600例以上を解析した結果、5年局所制御率は約70%。5年生存率は約50%で、手術とほぼ同等の成績を得られています。

 外部の医療機関とも連携し、重粒子線治療だけでなく、最適な治療を提案できることも当院の強み。治療に悩んでいる方はぜひご相談ください。

骨盤の模型を使って病状を説明
骨盤の模型を使って病状を説明

子宮頸部腺がんに重粒子線が保険適用[婦人科がん]

村田 和俊
2006年群馬大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線科専門医。専門は放射線腫瘍学、婦人科腫瘍。

 2022年4月から、根治的な手術が困難な局所進行性子宮頸部腺がん(ⅡB~ⅣA期)に重粒子線治療が保険適用となりました(※)。

 子宮頸がんの標準治療は、比較的早期であれば手術または放射線治療、進行がんの場合は抗がん剤と放射線を併用する化学放射線療法です。いずれも根治を目的にした治療ですが、頸がんの2割強を占める腺がんというタイプには従来の放射線(X線)が効きにくく、病巣に高線量を集中できる重粒子線に期待が寄せられていました。腺がんに対して先進医療として重粒子線治療が行われ、生存率でX線よりも優れる可能性を示せたことが今回の保険適用につながりました。また、従来の放射線治療はX線の外照射に腔内照射を併用しますが、重粒子線は外照射のみで治療することも可能です。

 なお婦人科領域では、6㎝以上の局所進行子宮頸部扁平上皮がんや、外陰部や腟、子宮頸部原発の悪性黒色腫にも、先進医療で重粒子線治療を実施しています。重粒子線で治療できる可能性があることをぜひ知っていただきたいと思います。

※陽子線は適用外

セカンドオピニオンにも対応
セカンドオピニオンにも対応

当院で行なっている重粒子線がん治療について、しくみ、対象となるがん、治療費、治療の流れなどについてご紹介します。


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INFORMATION

QST病院は100床を有し入院にも対応
QST病院は100床を有し入院にも対応

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院

千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1
電話 043・206・3306(代表)
https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/

この記事の掲載号

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