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【スーパードクター2023】東北・北海道エリアで初の重粒子治療施設。前立腺だけでなく肝臓や膵臓など対象を拡大

山形大学医学部 東日本重粒子センター

2022/11/28

がんの標準治療は、手術、抗がん剤、放射線の3種類。このうち最も進んだ放射線治療が重粒子線照射だ。山形大学医学部附属病院では東北・北海道エリアで初となる専門施設を2021年2月に完成させ、前立腺がんの治療をスタート。22年10月からは、同年4月に保険適用になったがんを中心に対象を拡大。身体的負担の軽い治療法をより多くの患者に提供していく。

山形大学医学部東日本重粒子センター 本格稼働 

山形大学教授
理事・副学長・センター長
根本 建二
ねもと・けんじ/1982年東北大学卒業。2006年山形大学教授、2016年~2020年3月同大医学部附属病院長。2020年12月から現職。

 山形大学医学部東日本重粒子センターは、国内で7番目の重粒子線治療施設であり、その中でも最もコンパクトな設計である。このため隣接する大学病院と渡り廊下で直接往来ができ、心臓病や糖尿病などの合併症のある方でも安心して治療を受けられる診療体制ができている。

「待合室をすべて個室にするなど、プライバシーにも配慮しています」と根本建二センター長は言う。

「世界で3台目の回転ガントリーを導入しており、患者さんは体勢を変えずに治療を受けることができる。私たちはこの施設を“山形モデル”と呼んでいますが、今後は国内外でこのスタイルが普及していくと思います」(根本教授、以下同)

前立腺がん以外の治療を行う回転ガントリー照射室
前立腺がん以外の治療を行う回転ガントリー照射室
世界で3台目となる回転ガントリー
世界で3台目となる回転ガントリー
加速器室
加速器室

照射計画など準備を徹底して安全性を確保

 通常の放射線治療ではエックス線が使用されるが、重粒子線では炭素イオンを使う。重粒子線治療は、がんだけを狙い撃ちできるピンポイント照射が可能であり、効果が高く、周辺の正常な臓器へのダメージを抑え、短期間で治療できる。

 これまでは前立腺や頭頸部のがん、骨や筋肉に発生した骨軟部腫瘍が保険適用となっていたが、22年4月から肝臓や膵臓がんなどにも保険適用が拡大され、同センターでも10月からこれらの治療を開始した。自費診療では約300万円かかるが、保険適用となれば、その1~3割の負担で済む。さらに高額療養費制度を使えば、診療費は10万円程度に抑えられる。

 ただし、破壊力が強いだけに事前の照射計画が非常に重要となる。このため同センターでは9名の医師と6名の医学物理士に加えて、診療放射線技師、看護師が協力して、精度の高い照射を実現している。

「重粒子線治療の対象になるがんは、これからも拡がることは間違いなく、さらに心臓病の一つである不整脈への治療にも期待されています。それだけに準備を徹底して、安全第一に取り組んでいく。この方針に変わりはありません」と根本センター長は語った。

主に前立腺がん治療に使用される固定照射室
主に前立腺がん治療に使用される固定照射室
診察室につながるロビー
診察室につながるロビー

重粒子線治療について

前立腺

放射線治療科長
佐藤 啓
さとう・ひらく/2006年新潟大学医学部卒業。新潟県立がんセンター、QST病院などを経て、2020年から現職。

 当センターでは2021年2月から前立腺がんの重粒子線治療を行なっています。これまでに550名超(2022年10月現在)の方が3週間の重粒子線治療を終えられ、皆さん順調に経過しています。

 前立腺は男性の膀胱の下にある栗の実大の臓器であり、そこに発生する前立腺がんに対しては、手術または放射線治療が標準治療となっています。放射線治療の一つである重粒子線治療は、メスを使うことなく臓器を温存でき、先進的なロボット支援手術と同等の結果が得られております。また、悪性度の高い前立腺がんの「高リスク群」に対しても、重粒子線による生物学的な効果の高さから有効性を発揮することが期待できます。

 当センターでは重粒子線治療後の丁寧な診療を心がけております。また、大学病院の地域医療連携センターと協同で、基幹病院から紹介され重粒子線治療を受けられた方が、当センターと地元の「かかりつけ医療機関」双方で診療を受けられる体制作りに取り組んでいます。こうした連携により、前立腺がんの重粒子線治療は、より身近な治療法になっていくと考えています。

治療前にはMRIとCT撮影を行い、腫瘍の位置や大きさを確認。
治療前にはMRIとCT撮影を行い、腫瘍の位置や大きさを確認。

頭頸部

萩原 靖倫
はぎわら・やすひと/2008年山形大学医学部卒業。神奈川県立がんセンター、QST病院などを経て、2020年に山形大学医学部附属病院に赴任。

 頭頸部がんは、顔~首に発生したがんの総称です。口腔・咽頭・喉頭の扁平上皮がんを除いて、鼻・副鼻腔や唾液腺、眼窩、頭蓋底などにできたがんの重粒子線治療は2018年から保険適用となっています。

 頭頸部には呼吸、食事、視覚、発声、味覚、聴覚など生きるために重要な機能が集中しています。また顔は整容性に大きく影響する部位です。このため、単純に根治を目指すだけではなく、可能な限り機能と形態を維持することが重要です。

 従来から放射線治療は切除に比べて形態維持の可能性が高いことから、根治治療の一翼を担ってきましたが、重粒子線治療では従来の放射線治療では制御が難しかった扁平上皮がん以外の頭頸部がんにも高い効果が期待できます。

 東北・北海道で唯一の重粒子線治療施設として、住民の方々にとって重粒子がより身近な選択肢に感じていただけるように務めてまいります。

過不足なく治療範囲を決定するために、入念に診察します。
過不足なく治療範囲を決定するために、入念に診察します。

婦人科

赤松 妃呂子
あかまつ・ひろこ/2009年山形大学医学部卒業。QST病院などを経て、2014年に山形大学医学部附属病院。2017年医学博士(山形大学)。現在は山形大学医学部助教。

 婦人科の中で重粒子線治療が保険適用になったのは、子宮頸部腺がんです。子宮頸部がんには扁平上皮がんもあり、こちらの方が患者数は圧倒的に多く、がんの大きさが6センチ以上の場合は先進医療として重粒子線治療が行われることになりました。いずれにしても、治療の選択肢が増えることは、朗報と言えるでしょう。

 子宮は骨盤の中にあり、膀胱・腸管が近接しています。これを避けながら、がんだけに集中的に照射できる重粒子の利点が活かされる治療となります。照射回数と治療期間は、組織にかかわらず計20回(5週)、小線源治療を併用する場合は計16回+小線源治療3回(6週)になります。治療期間は5~6週間です。

同センターには4人の女性医師が在籍している。
同センターには4人の女性医師が在籍している。

膵臓

川城 壮平
かわしろ・しょうへい/2010年山形大学医学部卒業。静岡がんセンター、QST病院などを経て、2019年に山形大学医学部附属病院に赴任。

 早期発見が難しい膵臓がんは、手術後の5年生存率も低い、根治が難しいがんです。

 基本的な治療法は手術と抗がん剤の併用ですが、手術ができないケースも多いです。エックス線照射が行われることもありますが、強度が足りず、あまり効果がありませんでした。ですから、破壊力が強い重粒子線が保険適用になったことは、大きな前進と言えます。

 膵臓は胃や十二指腸に近いですから、これらの臓器を避けて照射できることも重粒子線の強みです。このため副作用も抑えられます。

 また、膵臓は呼吸で動くため、そのリズムをセンサーで拾いながら、息を吐き切った時に照射する呼吸同期照射を実施します。照射回数は12回(3週間)ですが、抗がん剤も使うことで、より高い効果を期待できます。

期待されていた重粒子線治療が始まり、問い合わせも多いという。
期待されていた重粒子線治療が始まり、問い合わせも多いという。

小野 崇
おの・たかし/2011年山形大学医学部卒業。南東北病院、QST病院などを経て、2021年から現職。

 高齢社会の進行によって肺がんの患者さんにも高齢者が増えています。体力が衰えていることや、持病がある方も少なくなく、肺がんになっても手術ができないこともあります。そこで手術をすることなく同等の効果が期待できる重粒子線治療が選択肢となります。ただし、まだ保険適用ではなく、先進医療です。

 肺がんの中でも重粒子線を行いやすいのは肺の末梢部分、つまり端にできた場合です。逆に、体の中枢部分にがんがあると重粒子線は強度が高いだけに正常部分への毒性に十分注意して照射しなければなりません。また、照射後肺毒性が強く出やすい間質性肺炎合併肺がんでも、重粒子線治療であれば肺毒性を減らせる可能性があります。

 重粒子線の照射回数ですが、末梢部位なら4回(1週間)で済みますが、中枢なら12回(3週間)など、部位や病状によって異なります。

東日本重粒子センターのロビーにて。原色を多用した明るい空間だ。
東日本重粒子センターのロビーにて。原色を多用した明るい空間だ。

肝臓

金子 崇
かねこ・たかし/2013年山形大学医学部卒業。久留米大学病院、QST病院(旧放射線医学総合研究所病院)などを経て、2021年から現職。

 肝臓がんの重粒子線治療は2022年4月から保険適用になりました。とはいえ、肝臓がんの基本的な治療は第一に手術であり、ほかにもラジオ波焼灼療法や血管内治療、抗がん剤などがあり、重粒子線で保険適用となるのは、(1)がんが肝臓内にとどまっていて、(2)4センチ以上あり、(3)切除不能であることが要件となります。どの治療法が適切かはそれぞれの専門の医師から十分な説明を聞き、検討する必要があるでしょう。

 重粒子線治療の場合、照射回数は2回または4回で、1週間で完結します。患者さんの身体的負担を抑えられることが際立った特徴と言えます。ただし、肝臓は呼吸の影響で動く臓器ですので、当センターでは金属マーカーを挿入して、照射前の位置合わせを行なっています。

肝臓がんの重粒子線治療は外来で実施
肝臓がんの重粒子線治療は外来で実施

INFORMATION

総合病院と渡り廊下で連結
総合病院と渡り廊下で連結

山形大学医学部 東日本重粒子センター

山形県山形市飯田西2-2-2
電話 023-633-1122
https://www.id.yamagata-u.ac.jp/nhpb/

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