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【スーパードクター2023】国内屈指の脊椎・脊髄疾患治療の拠点。脊髄損傷の再生医療の道を拓く

独立行政法人国立病院機構 村山医療センター

2022/11/28

1941年の創設以来、脊椎・脊髄疾患治療の拠点として、高度な医療を提供している村山医療センター。命に関わる緊急手術から整形外科の全領域で侵襲の少ない手術を行うなど、一貫して患者のQOL(生活の質)の向上に努めている。谷戸祥之院長に同院の脊椎脊髄病の治療について特徴を聞いた。

院長
谷戸 祥之
やと・よしゆき/1989年医師免許取得。慶應義塾大学病院、藤田保健衛生大学病院、防衛医科大学校などで臨床、研究、教育に携わる。2013年に手術部長として村山医療センターに赴任。副院長をへて2020年より現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医、医学博士。

救急搬送や難症例の治療を積極的に受け入れ地域に貢献

 国内でも数少ない「骨・運動器疾患」の臨床研究施設として、また脊椎・脊髄疾患治療の拠点として高度医療を提供している村山医療センターの診療特色の一つが、全国でも数少ない脊髄損傷専門病棟があることだ。

 専門病棟があることで、他院では難しいと断られた首や背骨のケガ・事故やスポーツなどによって脊髄損傷した患者も緊急に受け入れ、治療・手術を行える体制を整えている。

 また、小児から高齢者の側弯症や脊椎カリエスの患者の来院も多い。子供の特発性側弯症は十代前半の女子に多く、経過観察が必要なため、じっくりと向き合い、患者個々のタイミングを考えながら保存療法から手術まで適宣治療を行う。高齢者の側弯症治療は、骨の強度、曲がり具合、またリウマチやパーキンソンなど持病から側弯になっているかどうかの見極めが難しい。原疾患を的確に診断し、状況に応じて治療を選択する。

 また、脊椎カリエスは結核菌によって背骨が曲がってしまう病気で、背骨を固定する必要がある。そのため、もともと結核の治療実績の多い同院に脊椎カリエスの患者が紹介されるケースも多い。

 こうした疾患以外の患者も全国から訪れ、緊急搬送も含めると手術は年間約1200件を数える。また、股関節や膝関節の変性疾患に対する人工関節置換術、手の疾患を専門に診療する手外科も入れると年間約2000件にもなる。

 ここまで幅広く対応できるのは、整形外科に脊椎を専門とする医師を14人も擁しているからだ。熟練した専門医がこれだけ揃っている病院は、国内でも少ないという。

 谷戸祥之院長は「我々は専門領域を越えて患者さんにとって最善の治療を提供するために、毎朝、医師全員が参加する整形外科全体のカンファレンスを行います。ここは、意見を出し合い、最新の情報を共有できる場になっている。お互いに専門領域が異なっても、より良い治療を患者さんに提供するため知見を高め合っています」

 同院は、低侵襲医療を提供し続けることも大事にしている。例えば頸椎症の手術はスキップ・ラミノプラスティ(選択的椎弓形成術)という術式を採用。頸椎後方の筋肉をできるだけ残して、必要な範囲の神経の圧迫をとり去るものでまだ実施している病院は多くない。

図1 スキップ・ラミノプラスティの低侵襲性
頸椎後方の筋肉をできる限り温存しつつ、必要な箇所の神経の圧迫をとる新しい術式。
図1 スキップ・ラミノプラスティの低侵襲性
頸椎後方の筋肉をできる限り温存しつつ、必要な箇所の神経の圧迫をとる新しい術式。

「狭い範囲で骨を削るので、高度な技術がなくてはできません。私たちは患者さんの身体的負担が少なく術後の早期離床、早期社会復帰が可能な低侵襲にこだわりたいのです」

 また、側弯症やすべり症に対する脊椎の固定術には、筋肉への影響が少ないCBT法という手術が使われている。これも非常に高い技術を要する手術だが、患者さんへの体の負担が少ないことから、積極的に採用している。こうした技術を医師全員で継承してきたからこそ、高度な手術を実現できるのだ。

図2 CBT法の低侵襲性
従来のスクリューの入れ方と異なり、内側からスクリューを入れるため筋肉と神経をできるだけ温存する術式。
図2 CBT法の低侵襲性
従来のスクリューの入れ方と異なり、内側からスクリューを入れるため筋肉と神経をできるだけ温存する術式。

近い将来、再生医療を慢性期患者にも広げたい

 近年、救急搬送で増加中なのは、転倒事故が原因で起こる高齢者の頸髄損傷だ。その症状としては、運動麻痺や感覚障害などさまざまに影響が及び、日常生活に支障をきたす。

「以前、静岡で海難事故があり、頸髄に損傷を負った患者さんを、防災ヘリで当院に緊急搬送して緊急手術を行いました。脊髄の損傷が大きく、全身不随の可能性が高かったのですが医療スタッフの手厚いサポートもあり、下肢が動くようになりました。また、先日も工事中の重機での大ケガで、頸椎がずれてしまった患者さんが搬送されてきました。大きく脊髄が損傷し、命の危険もあったのですが、緊急手術を行い、懸命のリハビリを終えた患者さんは現職に復帰できました。こうした事例からも、関東近辺で起きた脊髄損傷を早急に初期診断と治療ができる環境を整えているのは村山医療センターのプライドにもなっています」

急性期の損傷患者を受け入れる村山医療センター。時には防災ヘリを使用した患者搬送を行うことも。
急性期の損傷患者を受け入れる村山医療センター。時には防災ヘリを使用した患者搬送を行うことも。

 さらに、同院が力を入れているのは脊髄損傷に対する再生医療だ。その一つは、HGF(肝細胞栄養因子)を急性期の患者の脊髄に注射して神経を回復させるというもので、現在は臨床治験が行われている。

 もう一つは、ケガから3~4週間の亜急性期に、脊髄にiPS細胞を移植する再生医療。この再生医療は慶應病院と共同で研究を進めており、移植は慶應病院で行い、その後、村山医療センターで入院リハビリを行い、経過観察半年ほどで自宅や他の施設への転院を目指す。現在は臨床実験の段階だが、近い将来には、慢性期の不全損傷の患者にも広げられるようにするのが目標だ。

 2019年に完成した6階建ての新病棟は、1階に回復期リハビリ病棟、2階が脊髄損傷専門病棟、3階が地域包括ケア病棟、4~6階が一般病棟で、高度治療室4床も併設された。

村山医療センターは、様々なテレビ番組、映画、ドラマの撮影に使われることが多く、キャストのサイン、メッセージが展示されている。
村山医療センターは、様々なテレビ番組、映画、ドラマの撮影に使われることが多く、キャストのサイン、メッセージが展示されている。

 60床ある脊髄損傷専門病棟は、重症の患者が多く、看護の難易度が高い。通常の回復期リハ病棟の数倍の人員を要する。つまりマンパワーがかかる脊椎損傷専門病棟は赤字覚悟の経営となる。村山医療センターは、こうした治療と支援を必要とする患者と家族の“最後の砦”であり続けてきた。一方、近年の新型コロナウイルス感染症の影響により多くの総合病院では整形外科手術に遅れが出た。そのため多くの手術紹介を受けたという。

「高齢者の腰部脊柱管狭窄症など、進行した場合に健康寿命を大きく損ないかねない疾患もあります。手術が遅れることで患者さんのQOLを下げるようなことがあってはなりません。そのため当院の手術スケジュールは、他院から紹介を受けた患者さんの予定でいっぱいになっています。患者さんを守るための最善の医療を提供し続けていきたいと考えています」

 村山医療センターが国内でも高い実績と評価を受けているのは、自らの使命を自覚した医師と医療従事者のプライドに由来している。

【動画】脊椎・脊髄の専門医療

INFORMATION

独立行政法人国立病院機構 村山医療センター

東京都武蔵村山市学園2-37-1
TEL. 042-561-1221
https://www.murayama-hosp.jp

■受付時間/月~金 8:30~11:00
■休診/土曜、日曜、祝日、年末年始
■診療科目/内科・外科・整形外科・リハビリテーション科・泌尿器科・歯科

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