日本の金融資本市場をリードするグローバル金融サービス・グループ、野村ホールディングス。創業時から受け継ぐSDGsの姿勢を聞いた。
二代目野村徳七の“証券報国”の精神
「証券報国こそは野村證券の職域奉公の実体」――。1925年、野村證券の創業者二代目野村徳七が説いた創業の精神は、100年近い歴史の中で脈々と受け継がれてきた。野村グループは、気候変動や社会的課題の解決に役立つ金融サービスの提供など、金融という本業を通じて持続可能な社会形成に貢献し続けている。同時に企業市民の一員として、自らが温室効果ガス(GHG)排出量のネットゼロ達成などにも取り組む。
「社会課題の解決を通じて持続可能な成長を実現することは野村グループの存在価値であり、社会的責任だと自負しています」と野村ホールディングス・サステナビリティ推進室長の園部晶子さんは語る。
「お金の話はタブー」という価値観を変えていく
野村グループの社会貢献は多岐に渡る。なかでも本業で培った専門性を社会へ還元する金融経済教育は特筆に値する。今でこそ、その重要性が叫ばれているが、野村グループが金融経済教育を始めた1990年代の状況は違った。「生きるために必要不可欠な『お金』に対するネガティブな価値観を変えていこうと金融経済教育は始まりました」(園部さん)
結果、野村グループの取り組みは時代を先取りしたものになった。バブル景気の崩壊やリーマンショックなどの混乱を経て、資産運用の常識は激変。超低金利が常態化し、貯蓄から投資を活かした資産形成が重視されるようになった。さらに近年はスマホ決済や電子マネーの利用が一般化し、お金そのものが変化している。2022年度から高校家庭科にて資産形成・金融商品知識に関する内容が必修となったのは、こうした時代の流れを汲んだものだ。
「あらゆる人が正しい金融の知識を習得して、未来を考え選択する自由を持ち、精神的・経済的な豊かさを感じる社会を創り出すことが私たちのゴール。また幅広い世代への金融経済教育は、野村グループのお客様である個人投資家のリテラシー向上にも繋がります。その点では本業に関わる社会貢献とも言えます」
時代の要請に即した形で野村グループの金融経済教育はその規模を拡大していく。2001年には国内で初めての大学生向け寄附講座を開始。さらに全国の中学校・高校向けの教材提供や小学校向けの出前授業と範囲を広げ、社会人向けの教室も手がける。現在に至るまで、金融経済教育の全受講者数は延べ94万人(22年3月期)に上る。
ユニークなのは、知識習得にとどまらず、ゲームやワークショップを交えて「自分ごととして考える」工夫が凝らされている点にある。例えば小学校向けの授業では、サイコロを振るごとに為替レートが変動する中、輸入会社の社長の立場で、「円高・円安」を体感する。中学校・高校向けには、生徒が起業家として、身の回りの課題からそれを解決するアイデアを考え、イノベーションがうまれる過程を体感するアクティブラーニング型の授業が人気だ。

さらに、22年4月には「ファイナンシャル・ウェルビーイング室」を新設。全国の野村證券店舗に担当チームを置き、多くの金融経済教育に対応できる体制を整えている。
サステナビリティ分野の専門家集団をフル活用
本業を通じたサステナビリティへの貢献も加速している。その本丸となるのが持続可能な社会を実現するための資金調達――すなわちサステナブル・ファイナンスだ。野村グループはグリーンボンドやソーシャルボンドに代表される債券の引受けなどを通じて2026年3月までの5年間でサステナブル・ファイナンス関与額1250億ドルを目指す。計画の初年度にあたる22年3月期は214億ドルの調達に成功、目標達成に向けて実績を積み上げている。
なぜサステナビリティ分野で、野村グループが優位性を発揮できるのか。それは早い段階で、持続可能性を重視する社会の流れを読み解き、経営戦略としてサステナビリティ関連の取り組みに注力し、社会課題の解決を志す投資家や事業体、地公体との橋渡し役を担ってきたからだ。その一例が、環境関連分野に強い米企業グリーンテック・キャピタルの買収である。20年4月には、ノムラ・グリーンテックとして運営を開始。サステナビリティ分野でのM&A助言業務において、専門家集団の知見をフル活用している。
「サステナブル・ファイナンスのあり方は多様化しています。国内外のネットワークを活用し、幅広いスキームを組み合わせて、その時々の市場環境に応じた解決策を提案できるのが野村グループの強みです」と園部さんは説明する。社会全体の脱炭素化を達成するために2050年までに約122兆ドルの資金が必要とされ、その多くがアジアでの資金需要と言われる。つまり、世界の環境保全においては、日本をはじめとしたアジアの脱炭素化に向けた資金面でのサポートが重要であり、野村グループの果たすべき役割は大きい。
環境や社会問題の解決に貢献する「サステナブル・ファイナンス」

社会課題の解決を目指すSDGsの取り組みを金融面で支援する資金調達のことをサステナブル・ファイナンスと呼ぶ。公募・私募による株式・債券の発行を通じた資金調達などその内容は多岐にわたる。
野村グループは機関投資家の側面も持つ。同グループの野村アセットマネジメントは、年金基金や個人投資家の資産を預かる資産運用会社として、投資先企業に持続的成長を促していく「責任投資」を推進する。
「いまやサステナブル投資は世界的な潮流になっており、企業の持続可能性はESG(環境・社会・ガバナンス)といった非財務情報と財務情報の双方で評価される時代です。投資先企業が社会課題を克服し、社会に受け入れられる存在になっていくことは企業価値を高め、顧客へのリターンへとつながっていく。こうした『投資の好循環(インベストメント・チェーン)』を生み出すために野村アセットマネジメントでは投資先企業と対話を重ね、必要に応じて議決権を行使し、責任ある投資家として企業経営に関与しています」と園部さん。
さらにその総合力を活かして、金融という切り口から幅広い社会課題の解決に取り組んでいる。例えば高齢化に伴う後継者不足解消の一助とすべく、意欲ある若者と後継者を探す企業をつなぐジャパン・サーチファンド・プラットフォームを設立。日本の農業を通じた地域活性化という課題についても、野村アグリプランニング&アドバイザリー(NAPA)を設立し、食や農に関する調査・コンサルティングを通じて社会課題の解決、地域活性化を目指している。
「SDGsの達成には、市場のさまざまなプレーヤーが手をつなぎ、知恵を絞る必要があります。理想の未来から逆算し、道を拓いていく。野村グループは金融を通じて人と人を結び、サステナブルな取り組みを加速させるパートナーとして走り続けます」
意欲ある若者に活躍の場を提供。
事業承継問題も解決できるサーチファンド

高齢化に伴う後継者不足を解決すべく、野村グループは2021年12月、ジャパンサーチファンドアクセラレーター(JaSFA)と協働し、事業承継の課題を抱える法人と次世代の意欲ある経営者を繋ぎ、事業承継を支援する「ジャパン・サーチファンド・プラットフォーム(JSFP)」を設立した。
サーチファンドとは、企業経営を目指す意欲のある若者「サーチャー」と、事業承継に課題を抱え、適切な承継先を探す中小企業を繋ぐ新たなビジネスモデルのこと。サーチャーとなる若者は成長可能性のある企業を探し、オーナーと事業承継を直接交渉したうえで、社長として企業価値を高め、上場や第三者売却などで利益を生む。JSFPは資本市場に働きかけて資金を調達してファンドを設立し、取り組みを後押しする。
アグリビジネスを軸に地域の活性化を図るNAPA
農業は環境問題や食糧問題、地域経済などさまざまな社会課題に関わっている領域だ。野村グループは2010年、農業を軸とした調査・コンサルティングに取り組むグループ会社・野村アグリプランニング&アドバイザリー(NAPA)を設立。農業の活性化を促し持続可能な社会づくりへの貢献を目指す。国内外の野村グループのネットワークを活かし、地方自治体、地域金融機関、大学、事業会社、農業生産者などさまざまな関係者と協働しながら農業の成長産業化に取り組んでいる。2011年には実証農場である野村ファーム北海道を設立、生産実証にも取り組む。農業経営で得たノウハウは農業の産業化や効率化に活かされている。

Text:Emi Morishige
