借金に苦しみ、SNSを通じて「闇バイト」に応募した男は、最終的に懲役7年の実刑判決を受けた。神奈川新聞の田崎基記者は「当初は『受け子』や『出し子』などと呼ばれる特殊詐欺の実行犯をやっていたが、徐々に犯罪行為が過激になり、最後には強盗を強いられるようになっていた」という――。(第2回)
※本稿は、田崎基『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。
「中にあったはずの現金が奪い去られている」と語る20代の男性
年の瀬も押し迫った2020年12月28日。寒風吹きすさぶ中、土地勘のない大阪の地で、男はひとり途方に暮れていた。意を決したようにスマホを取り出し、ためらいながらも「110」と押した。
「ホテルのカードキーを奪われました」
大阪府警の警察官が駆け付ける。男は警察官に伴われ、泊まっていた新大阪駅近くのビジネスホテルへ向かった。キーがないのでホテルの従業員が部屋の鍵を開けた。
室内には、チャック部分の布が切り裂かれたスーツケースが転がっていた。「中にあったはずの現金が奪い去られている」と男は言う。
警察官の不審は深まるばかりだった。20歳かそこらの若者が、札束を所持し、しかも「奪われた」と言っている。現金の出どころは一体……。いや、そもそもこの男は、何者なのか……。
「1000万円くらいがスーツケースに入っていた」
男の名は吉田豊(仮名、当時21歳)といった。その場で聴取が始まった。
——誰に金を取られたんだ。
「闇金に取られました」
——いくらだ。
「実は、1000万円くらいの現金がスーツケースに入っていました」
——何の金だ。
「運び屋の裏バイトをしていました。そのバイトをするに当たり、私の実家の住所を、(指示役に)教えてしまっているので、家族に危害が及んでしまうのが心配なのです。運ぶはずの現金を盗まれてしまったので、自分の身も危ない状況です」
一体何を言っているのか。吉田の弁に署員は眉根を寄せる。現場での受け答えは要領を得ず、突き詰めて聞こうとすると、吉田の話は二転、三転した。任意同行を求められ、吉田は大阪府警東淀川署へ連れて行かれた。