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福岡県豊前市。和代はその日、自らが働く介護施設で、夜勤を担当していた。ある利用者と話をしている時、はじめて事件のことを耳にした。

「宮崎で事件があったって……。5カ月の男の子がおらんらしい」

和代はドキッとした。

「え? うちの孫も5カ月よ……」

動揺していると、すぐに夫の奥本浩幸(当時50代)から連絡があった。章寛が宮崎で事件を「起こした」のだという。

「まさか……」

和代は慌てて車のエンジンをかけ、自宅に向かった。到着すると、すでに事件の知らせを聞いた地域の人々が集まってくれていた。章寛は殺人罪で逮捕されていた。

妻、義母を殺害し、息子の遺体を資材置き場に埋めた

亡くなったのは、同居していた生後5カ月の章寛の息子、妻、そして義母――。和代と浩幸は、章寛が勾留されている宮崎県宮崎市の警察署まで向かわなければならなかった。何かの間違いであってほしい……。その一心で2人は約5時間、ほぼ無言のまま、車を走らせていた。

2010年3月1日、宮崎市内の民家で、奥本真美(仮名・当時20代)と母親の山口信子(仮名・当時50代)が死亡しているのが見つかり、さらに生後5カ月の長男・雄登が行方不明となった。「帰宅したら2人が死んでいた」と第一発見者を装い通報した章寛は、その後警察の調べに対し、3人を殺害し、長男の遺体を埋めたと供述。近くの資材置き場から、長男の遺体が発見された。

宮崎市内の警察署に到着した2人は、悪夢が現実になったと感じていた。

「ごめんなさい……」

面会室に現れた章寛は、両親の顔を見るなり泣き崩れた。これほどまでに弱々しい章寛の姿を見たのははじめてだった。2人は警察の事情聴取などがあり、しばらく宮崎に留まらなければならなかったが、宿を借りる際、名前を名乗ることができず、車内で寝泊まりするしかなかった。殺人犯の家族だと周囲に知られることが怖くて仕方なかったのだ。これから先、何が起きるのか、親として何をするべきなのかわからず、日々不安だけが募っていった。