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「妻を殺す夢を見たことは何度もあったが、自分はできなかった……」

和代は事件後、彼に謝罪をした際に、そう言われたことがあった。また、事件現場の取材からも、「信子が大声で怒鳴っている声が聞こえた」「章寛が雨の中、家の前で立たされているのを見た」という近隣住民の話が伝えられており、そのような背景もあって3人が無惨に殺された事件であるにもかかわらず、章寛に対する同情の声も多くあったのだという。

孫ができたので章寛にもう用はなく、出ていってほしいと思っての嫌がらせだったのか。信子が何を望んでいたのかは、今となっては知るよしもない。昼は過酷な肉体労働、家では義母になじられ、章寛は身体的、精神的に追い詰められていく。

地元を侮辱されたことが家族殺害の動機となった

心優しく穏やかで、忍耐強い章寛にもたったひとつ、許せないことがあった。それは、愛する家族と生まれ育った地域への侮辱である。

2010年2月23日。「あんたの親はなんにもしてくれん!」と、信子はいつものように暴言を吐きながら、章寛の頭を何度も殴りつけた。そして、「田舎へ帰れ!」と章寛のことをなじった。この一言が、章寛に殺害を決意させる。信子は、章寛の心の拠り所である家族や地域を、章寛を傷つけるために侮辱した。この言葉は、章寛の理性を完全に崩壊させた。

3人を殺害する5日前の出来事である。章寛は家族殺害のためのハンマーを購入し、夜、3人が寝静まるタイミングを待っていた。しかし、過酷な労働と孤独な生活で、疲弊しきった章寛が先に眠ってしまうこともあり、「昨夜もできなかった……」朝、目が覚めてそう思う日が何日か続いた。

そのまま時が流れ、章寛が自ら理性を取り戻すことができればよかったのだが、ついにその日は来てしまった。

タイムマシンがあればちょっと前に戻って、3人で仲良く暮らしたい

章寛は、今日こそはとハンマーを握りしめ、3人が眠る寝室へと向かった。雄登はすぐ物音に気が付き声を出した。章寛は、雄登が泣き出しては困ると両手で首を絞めて殺害。その後、刃渡り12センチの包丁で真美の首を刺し、ハンマーで頭を数回殴打した。そして最後、信子の頭にハンマーを何度も振り下ろし、息の根を絶った。