メソポタミア文明が誕生した巨大湿地帯に、豪傑たちが逃げ込んで暮らした“梁山泊”があった! 辺境作家・高野秀行氏は、ティグリス川とユーフラテス川の合流地点にあるこの湿地帯(アフワール)を次なる旅の目的地と定め、混沌としたイラクの地へと向かった。
現在、「オール讀物」で連載中の「イラク水滸伝」では書き切れなかった「もう一つの物語」を写真と動画を交えて伝えていきたい。
◆ ◆ ◆
“リムジン”のような大きくて美しい舟
約3年ぶりの連載再開である。今回は2回目にイラクの湿地帯を訪れ、「タラーデ」という伝統的な舟を現地の舟大工に頼んで作ってもらった件を報告したい。
タラーデはかつてシェイフ(氏族長)が乗っていた“リムジン”のような大きくて美しい舟だ。舳先が三日月のようにそりかえっていて、まるでアラビアンナイトの物語から出てきたよう。1970年代ごろに船外モーターが普及するとタラーデの需要はなくなり、現在では作られていない。
このタラーデは湿地帯の出身で現在はイギリスのロンドン在住のアーティストが何かのイベント用に造らせたものだという。
シュメールの都市国家遺跡ウルから出土した、約5000年前の舟の模型(バグダード博物館所蔵)がタラーデとそっくりなのに驚かされる。タラーデは5000年前のシュメール文明を直接受け継いでいるのだ。