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脚本料は10万円「シナリオ作家協会の推奨額は75万円」

 五藤氏がもう1点、納得できなかったのは脚本料についてだ。

「プロデューサーの小林氏が五藤氏に脚本料を提示したのは、クランクアップ後の1月。その金額は10万円だった。五藤氏は、日本シナリオ作家協会が推奨する脚本料である製作費の5%という基準を満たしておらず、あまりにも低い金額に納得できないと、これを了承しませんでした。

 五藤氏は弁護士を通して、荒井氏と片嶋監督に対し、脚本を勝手に改変したことについての謝罪と、脚本料の修正を求めてきました。しかし、『五藤氏が書いた脚本は完成品とはいえず著作物と呼べるものではない』と主張する荒井氏と、『シナリオ作家協会の推奨する脚本料の基準はあくまで努力目標』とする片嶋監督と意見は真っ向から対立。結局、公開直前になっても交渉はまとまらず、五藤氏はついに訴訟に踏み切る決意をしたそうです」(同前)

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 五藤氏は法廷で、未払いになっている脚本料と慰謝料の支払い、そして映画の公式サイト等での謝罪文の掲載を求めていく予定だという。荒井氏、片嶋監督に対し内容証明を送付し、訴訟の準備に入っている段階だそうだ。

 この事態に最も困惑しているのは、ほかならぬ東出だろう。

映画公式Twitterより

「東出さんはこの作品に“本気”だった」

「東出さんは荒井氏のファンで、二つ返事で今回の仕事を引き受けたとか。東出さんは今回、三好達治を演じるにあたり、当時の時代背景や詩についてだいぶ勉強したそうです。特に、愛憎ゆえに女性を殴るという過激な役をどう演じるかについては悩んでいたようで、撮影前に荒井氏と愛についての議論を重ねたことを、インタビューで明かしています。久しぶりの主演作、それも尊敬する脚本家とともに作り上げた作品とあって、思い入れは強かったはずです」(前出・芸能記者)

 前出の映画関係者は「東出さんはこの作品に“本気”だった」と語る。

「スケジュール管理や請求書の発行など、事務的な仕事も彼が行っているようです。東出さんクラスだと複数のマネジャーがついてもいいくらいですから、それをすべて自分でさばくのはかなり大変でしょうね。それでも現場では難しい役に入り込んで、精魂込めて演じていました。

 妻を散々殴った後で、自分を思い切り殴るというシーンがあったのですが、東出さんはその脚本を見て、『荒井さんたら』と思いながらも顔がパンパンに腫れるほどに自分を殴ったと語っています。実は、そのト書きを書いたのは五藤さんらしいのですが……。

『天上の花』は大勢の観客動員を見込める商業映画ではありませんが、東出さんはそれだけ熱心に向き合っていました」

 五藤氏に今回のトラブルと訴訟に至る経緯について事実関係を尋ねたところ、「概ね間違いありません」と認めた。

 荒井氏、片嶋監督にも質問状を送ったところ、プロデューサーの寺脇氏、小林氏を交えた四者が取材に答えた。そこで明らかになってきたのは、五藤氏と四者との“常識”の違いだった。(#2に続く)

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