監督は「議論から逃げたのは彼女自身」
一方、片嶋監督は「脚本は脚本チームである荒井さんと五藤さんのものであり、僕に削ったり直したりする権限はない」としたうえで、こう見解を示した。
「本来であれば、脚本チームである2人の間で議論を重ねるべきところを、彼女はそうしなかった。議論から逃げたのは彼女自身なんですよ」
しかしながら、五藤氏がその「議論」の場に呼ばれていなかったこともまた事実だ。荒井氏による直しが入った脚本が決定稿になった話し合いの場に出席していたのは、荒井氏、片嶋監督、寺脇プロデューサーの3人だった。
この件について、プロデューサーの寺脇氏は「脚本チームの代表として荒井氏が参加したという認識で、問題なかったと考えている」と答えている。しかし五藤氏が決定稿を見たのは、撮影開始のわずか数日前。五藤氏はそのことでさらに不信感を募らせていたようだ。
「決定稿が納品されたのは10月22日。五藤さんから届いていないと催促を受けたのが29日でした。クランクイン前でバタバタしていたとはいえ、五藤さんに決定稿をお送りしていなかったのは私たちの大失態です。この点については謝罪する用意があります」
荒井氏に直接脚本に関する意見をしなかった点について、五藤氏本人に確認したところ、こう回答した。
「9月に荒井さんから大幅な修正の提案があった時、私がメールで同意できない旨を伝えるとその場はいったん保留しようということになりました。それが10月になって大幅に加筆修正された第11稿が送られてきました。
私が受け取ったのは打合せの前日でしたが、監督の元には1週間ほど前に届いていたと聞き、信頼関係を裏切られたような気持ちになりました。この状態で荒井氏に何を言っても無理だと思い、監督に相談しました。監督も脚本の修正に納得できない様子だったので、私の意見を代弁してくれるものと思っていました」
脚本料は「交渉をしたいと思っていた」というが…
もう1点、争点となっているのは脚本料についてだ。五藤氏が提示された脚本料は10万円。今回の製作費は1500万円であり、シナリオ作家協会が推奨する脚本料の基準である「製作費の5%」を当てはめると、75万円が相場となる。10万円という金額はあまりにも低いものと感じられる。
これについて、太秦の小林三四郎氏はこう説明した。
「クランクアップ後の1月10日に10万円+興行収入のインセンティブという金額をご提示しました。しかし、これは交渉の第一段階です。荒井氏にも同じ金額を提示しましたが、その後交渉を経て、ある金額に落ち着いています。五藤さんとも交渉をしたいと思っていたのですが、話し合いを拒絶されていた。
正直、時代劇を予算1500万円で撮影するのは難しい。それでもこの作品を作る意義を感じて、いつもよりも安いギャランティで俳優やスタッフがお仕事を引き受けてくださった。脚本料10万円というのは、そういった状況の中でバランスを考えて算出した金額です」