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genre : ライフ, 国際, 歴史, サイエンス

画中のロシア商人の家族が全くガヴァネスに敬意を表さず、それどころか自分らより

高い階級だったのに今やその座から転落した哀れな娘として、珍獣でも見るように遠慮会釈なくじろじろ見ているのはそこから来る。彼女が恐怖と屈辱に耐えていることを、かえって面白がっているのかもしれない。今後の仕事は辛(つら)いものになるだろう。

マリー・キュリーも、かつて――これほどあからさまではなくとも――差別的な視線、あるいは侮辱的なまでに憐れむ視線を受けたことがあったのではないか。なぜならそういう時代だったのだから。

そしてマリーのかつての雇用主たちは、彼女がノーベル賞を受賞した時(パリに出てわずか12年後だ)、自分が空前絶後のガヴァネスを雇っていたと知ってどんなにか驚愕(きょうがく)したことだろう。

中野 京子(なかの・きょうこ)
作家、独文学者
北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに絵画を読み解くエッセイや歴史書を多く執筆。「怖い絵」シリーズは好評を博し、2017年には「怖い絵」展を監修、続く2022年にはコニカミノルタで「星と怖い神話 怖い絵×プラネタリウム」上映。近著に『災厄の絵画史 疫病、天災、戦争』がある。

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