科学的な考え方を身につけるにはどうすればいいか。サイエンスライターの緑慎也さんの著書『13歳からのサイエンス』(ポプラ新書)より、蚊に刺されやすい妹のために蚊に刺されにくい方法を探究した男子高校生のエピソードを紹介する――。
研究対象は「一生に一度しか交尾をしない蚊」
米コロンビア大の学生(当時)の田上大喜さんは、コロナ禍の2020年4月に帰国。京都市の自宅からオンラインで講義を受けはじめた。
「授業は、日本時間の夜11時頃から深夜3時頃まで続きます。その後少し休んで、朝7時から昼頃まであります。午後2時から6時頃まで寝ますが、それだけでは睡眠が足りないので、夜中に仮眠を取っています」
かなりハードな生活に思えるが――。
「でも、アメリカでは自分で料理を作ったり洗濯をしたりしないといけませんが、今は親がやってくれるので、その分、楽です」
私が田上さんを取材するのは5年ぶり2回目だった。最初に会ったのは2015年で、彼が高校1年生のときである。当時、彼が取り組んでいた研究について話を聞き、週刊誌に記事を書くためだった(「スーパー・サイエンス・ハイスクール」の実態『週刊新潮』2015年12月24日号)。
その研究とは「一生に一度しか交尾をしないヒトスジシマカの雌に2時間で10回以上交尾行動を起こさせるには」。
人間の足のニオイが媚薬の役割に
ヒトスジシマカとは、いわゆるヤブ蚊である。私はそれまでヤブ蚊が一生に一度しか交尾をしないと言われていることすら知らなかったが、田上さんの研究によれば、足のニオイを嗅がせることで10回以上に増やせるというのである。足のニオイが蚊にとって媚薬の役割を果たしているわけだ。
田上さんは2歳下の妹、千笑さんが自分よりも蚊に刺されやすく、しかも刺された跡が腫れ上がることを昔から不憫に感じていた。これを何とかしたいというのが中学3年生のときに研究をスタートさせた動機の一つだ。