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連載「イラク水滸伝」外伝

イラクで古代の舟を作る! 5000年前から伝わる水漏れ防止の技術「ギール(瀝青)」とは

「イラク水滸伝」外伝――第10回:舟大工が「タラーデ」に塗装を施す

2023/01/23

genre : ライフ, 国際,

 メソポタミア文明が誕生した巨大湿地帯に、豪傑たちが逃げ込んで暮らした“梁山泊”があった! 辺境作家・高野秀行氏は、ティグリス川とユーフラテス川の合流地点にあるこの湿地帯(アフワール)を次なる旅の目的地と定め、混沌としたイラクの地へと向かった。

 

 現在、「オール讀物」で連載中の「イラク水滸伝」では書き切れなかった「もう一つの物語」を写真と動画を交えて伝えていきたい。

舟(タラーデ)の形はできあがった。次の作業は…

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5000年以上前から接着剤や雨漏り防止で使用

 私たちはイラク湿地帯の伝統的な舟「タラーデ」を作っていた。舟の形が完成すると、最後、表面に「ギール(瀝青/レキセイ)」を塗装する。水漏れ防止のためだ。

 瀝青とは天然のアスファルトのことで、ビチュメンとも呼ばれる。「自然に存在する原油の軽質分が蒸発してアスファルト分が残ったものと考えられている」という(一般社団法人日本アスファルト協会HPより)。

 現代イラクは産油国だが、古代メソポタミアの時代からずっと石油の恵みを受けてきた。ギールは接着剤や雨漏り防止などとしても5000年以上前から使われていた。

ウルのジグラット

 湿地帯エリアの町ナーシリーヤの郊外にあるウルの遺跡。約4100年前に建てられたジッグラト(聖塔/基壇上に神殿)が残されている。

ジグラットのギール

 基壇の上に登ると、日干しレンガの間には黒いギールが塗り込まれていた。周辺の他の遺跡でもギールは至るところで使用されていた。

ギールの塊は世界で最も古い都市国家の遺跡でも

ウルクの遺跡にあったギールの塊

 世界で最も古い都市国家の可能性があるとされるムサンナ県ウルクの遺跡。「文字発祥の地」としても、また「ギルガメシュ叙事詩」の主人公ギルガメシュ王が作った町としても知られる。ここもかつてはすぐそばをユーフラテス川が流れており、湿地エリアだった。

 ギールはここでも建築に使用されていた。また、ギールの塊が転がっているのも見かけた。