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老朽化マンション相続の末路 “郊外は特に要注意”の理由

2023/03/07

 民間で初めてマンションが分譲されたのが、1956年、東京都新宿区四谷本塩町に建設された四谷コーポラス(2019年に建て替え)である。以降65年以上にわたってマンションは分譲、供給が行われていて、2021年末で累計685万9000戸、国内の住宅総数が2018年で6240万戸であるからマンションは日本の住宅の1割を超える、ごく一般的な居住形態になっている。

旧耐震設計のマンションは不人気

 685万戸のマンションのうち、約15%に相当する103万戸が所謂、旧耐震建物だ。旧耐震建物とは1981年5月末日までの建築確認で建設された建物で、大きな地震等が発生した場合、現在の耐震基準よりも耐震性能に対する規制が緩いため、損壊や倒壊などのリスクが高いとされている。

写真はイメージ ©AFLO

 1981年以前といえばすでに40年以上前だ。1970年代前半から80年にかけて大都市圏では地方からやってきた人たちの多くが家を購入した。そして現在、購入者の多くが80歳代から90歳代に突入している。つまり、これから発生する多くの相続は旧耐震設計下のマンションが相続財産の対象となることを意味している。

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 旧耐震設計のマンションは、同じく旧耐震のオフィスビルに人気がないのと同様に、マーケットでは人気がない。1995年に発生した阪神・淡路大震災でも旧耐震設計のマンションで、建物が傾く、1階のピロティ部分が損壊して車が下敷きになるなどの被害が多く報告された。

マンションの建て替え問題

 こうした旧耐震マンションが次世代に相続され、きちんと利用、活用されていくか、今後頻発する相続でマンションの持つ価値が問われようとしている。まず築40年を超えるようになると、建物の老朽化問題が喫緊の課題となる。マンションはその多くが鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造だ。コンクリートの耐久性は一般的には50年から60年とされるが、築40年を超えるようになると建物自体の建て替え問題が生じる。

 建物の構造や躯体に問題がなくとも、ガスや上下水道、電気などの配管の老朽化は大規模修繕を施すにあたっても限界を迎える。人間でいえば肉体はまだまだ元気でも内臓や血管に支障が起こるようなものだ。

 しかし残念なことにマンションの建て替えはほとんど行われていないというのが実態だ。国土交通省の発表によれば、2022年4月1日現在で、建て替え工事が終了したマンション棟数は累計でわずか270棟にすぎない。1棟あたり50戸でカウントしても1万3500戸。仮にすべての建て替えが旧耐震基準のマンションで行われたと仮定しても、建て替え率は1%強にすぎない。