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「カップラーメンを食べていた学生を注意しなかった」視覚障害のある教員に退職を迫り…岡山短大で起きた“障害者差別”

『ルポ 大学崩壊』より#2

2023/03/15

 独裁、私物化、雇用破壊、ハラスメント、天下り……教育と研究の場であり、社会の規範となるはずの大学で、信じ難いような事件が起きている。

 ここでは、大学の雇用崩壊やアカハラ・パワハラについて取材を続けてきたジャーナリスト・田中 圭太郎氏による『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書)より一部を抜粋。准教授として働いていた山口雪子氏に対して、岡山短期大学が行った強引な退職勧奨の実態とは——。(全2回の1回目/続きを読む

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障害者差別解消法を無視

 全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進する(中略)。

 これは2016年4月に施行された、障害者差別解消法の目的だ。

 ところが、法の施行とほぼ同じ時期に、視覚障害があることを理由に、准教授を教職から外した大学がある。学校法人原田学園が運営する岡山短期大学だ。

 幼児教育学科の准教授だった山口雪子氏は2016年3月、視覚障害を理由に「指導能力がない」と突然授業を外された。

 山口氏は教職への復帰を訴えたが、岡山短大が復帰を認めなかったため、法廷闘争に発展し、2018年11月、最高裁で山口氏の勝訴が確定している。

 にもかかわらず、岡山短大は山口氏の教職復帰を引き続き認めなかった。最高裁判決後の2019年1月に、引き続き授業を担当させない決定をした。表向きの理由は「授業の担当教員の変更」と説明するが、障害のある山口氏への差別ではないだろうか。

 山口氏はこの決定の翌月、障害者雇用促進法に基づいて、岡山短大と協議をするための調停を岡山労働局に申請した。同年12月、調停は終了したが、その後も山口氏は教職を外されたままで勤務を続けている。

 法の趣旨に反した職務変更はどのようにして行われたのか。最高裁判決はなぜ反故にされているのか。問題の経緯を見ていきたい。

退職勧奨ののち、強引な職務変更

「教員能力が欠如しているとして授業を外されましたが、裁判所は職務変更が無効だと判断してくれました。それなのに、私は授業を担当できないのです。大学に謝ってほしいわけではありません。以前のように教壇に戻してほしい。ただそれだけです」

 岡山短大幼児教育学科の准教授である山口氏は、遺伝性の網膜色素変性症を患いながら、岡山大学資源生物科学研究所(現在は資源植物科学研究所)で博士課程を学び、博士号を取得した。

 岡山短大には1999年に講師として採用された。2007年に准教授に就任し、自然の中での遊びや、科学遊びなどを通して、幼児の好奇心を引き出しながら教育を実践する「科目環境(保育内容)」を専門にしていた。

 当時の山口氏の視力は0.2ほどだった。網膜色素変性症は視野が徐々に狭くなる病気で、症状には個人差があり、山口氏の場合は症状がゆっくりと進行していた。小学校から高校までずっと普通の学級で過ごしてきた山口氏は、視覚障害があっても研究や授業を進める上で支障はなかった。

 しかし、2014年1月、岡山短大は山口氏に対して退職勧奨を始める。