文春オンライン

source : 提携メディア

genre : ビジネス, 音楽, アート, 企業

なぜ「名ばかりのS席」が多いのか

演劇やコンサートは、演じる者・歌う者が観客と同じ空間・同じ時間を共有する。だからこそ、人はその臨場感・生の迫力に感動するのだろう。

映画と違って生身の人間が舞台で芸を披露するわけだから、観客はよりステージの近くで見たいと思うのは当然だ。映画と違って席にグレードがあり、料金が異なるのは普通だ。しかし日本国内の公演の多くは、すでに述べたように大雑把な席種の配置が行われていることが多い。全席S席とか、9割がS席という場合もある。もはや何のための席種なのかわからない。

興行主はできるだけ高くチケットを売りたいと思うのは当然だろう。しかし、消費者の不公平感、不満は無視できない。逆に、比較的安価な座席を設けることで、観客の裾野を広げる思惑もあるかもしれない。

これは筆者の推測であるが、かつて接待などの団体観劇が盛んだったことが一つの理由かもしれない。大勢の団体客を受け入れるために、同じ席種が大量にあったほうが便利であり、招待客は「S席を与えられた」と喜んでくれる。招待する側にも興行主にも都合がいい。

団体観劇の場合は興行主も柔軟な価格設定をしている場合があり、必ずしも画面通りの料金が招待者に請求されているわけではない。招待客の場合は自分で観劇料を払っていないので、「名ばかりS席」であってもクレームになりにくかったのだろう。

海外は席種を細やかに分けている

日本の「名ばかりのS席」問題は、海外での観劇経験からも言える。筆者は歌舞伎を中心として40年以上の観劇歴があるが、ニューヨークやロンドンの劇場では日本に比べて席種の分け方が細やかな場合が多い。

例えば、ライオンキングのロングランで知られるロンドン・ライセウム劇場(Lyceum Theatre)の席種例を見てみよう。

価格帯は15に分かれている。ステージへの近遠だけでなく、左右、また視野なども考慮してかなり細かく席種が分類されていることが分かる。