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また「カムチャッカ半島には約2万頭ものヒグマが生息している。そのうち毎年約20頭が攻撃的であるとして射殺されている」(前掲Igor Kravchuk)という。

したがって、カムチャッカ半島における人喰い熊の出現確率は1000頭に1頭、0.1%と推定される。

人肉の味を覚え、「人喰い熊」となる

前出のレスノイ村、ソスノフカ村、エリゾヴォ村は、互いに10~20キロ程度の隣村同士であり、テルマリニ村とペトロパブロフスク市を含めても、5事件現場は半径20キロ圏内に、ほぼすっぽりと入る位置関係だ。

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ヒグマが、一度覚えた味をしつこく求める傾向が強いことは、専門家も指摘しているところである。

偶発的に人肉を味わうまでは、故意に人間を襲って喰うことはないはずだが、逆に一度、人肉の味を覚えたヒグマは、「人喰い熊」となって、連鎖的に食害事件を起こす可能性がある。

最初に触れた「ペトロパブロフスク熊事件」でイゴールとオルガを襲ったのは母熊だったが、3匹の仔熊も食害に参加している。そのため、人肉の味を覚えた可能性が高い。

この仔熊たちを放っておけば、いずれ恐るべきモンスターに成長していたかもしれない。

仔熊を含め、4頭すべて射殺されたのは幸いと言えよう。

一方、ペトロパブロフスク近郊で食害事件が多発しているのは、不幸にも、このような「人喰いの記憶」が、親から子へ受け継がれた結果なのではないか。

中山 茂大(なかやま・しげお)
ノンフィクション作家・人力社代表
明治初期から戦中戦後にかけて、約70年間の地方紙を通読、市町村史・郷土史・各地の民話なども参照し、ヒグマ事件を抽出・データベース化している。主な著書に『神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史』(講談社)など。
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