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国会の議論に実効性はあるのか

中野さんの損害賠償請求を担当する木村壮弁護士は、政府がこうした考え方を示したことを評価している。

しかし、だからといって楽観視はできない。上告審である最高裁は、さまざまな主張や証拠を取り扱う第一審や控訴審とは違い、法令違反の有無だけを判断する法律審だ。

木村氏は「主張が制限される状況にあるのは苦しい。しかし、法令違反には事実認定の経験則違反もあり、新法解説で重要な経験則が示されたので、これにのっとった判断をしてほしい」と一縷の望みを託す。

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中野さんの母は控訴中の2021年7月に91歳で亡くなった。介護施設に入った母は認知症が進み、さらにコロナ禍ということもあり直接の面会ができず、ビデオ通話を通して様子を確認する状況が続いた。十分な意思疎通ができないままに肺炎となってしまったが、それでもこちらの言うことは聞いてくれている気がしていた。「亡くなる前に裁判に勝ったよと言ってあげたかった」と中野さんは悔しさをにじませる。

「私と同じような被害者を出さないためにも、最高裁にはきちんとした判決を下してほしい」。

中野さんと母を翻弄した念書の存在。最高裁がこれまでの地裁、高裁判決を追認するか翻すかは、被害者救済のために費やした国会での議論が実効性を持ったものになるかどうかを端的に表すと言えるだろう。

天国の母の無念に報いることができるかどうか。国会だけでなく司法の場も試されている。

宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で首相官邸や国会、外務省などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者YouTuber宮原健太」でニュースに関する動画を配信しているほか、「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしても活動している。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。
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