草刈り業者というのは聞き慣れない方も多いと思うが、これは千葉県郊外特有の業態だろう。管理契約を締結している土地には、自社名と「○○様所有地」と依頼者の名前入りの小さな立看板を立てるのが慣習である。
千葉の限界分譲地は、マンションや別荘地と異なり、分譲地全体を見る管理会社が存在しないところがほとんどである。自治会が草刈りなどの整備作業を請け負っていることもあるが、自治会のない分譲地は、地主が個別に管理会社に草刈り作業を依頼するしかない。
依頼主の大半は限界分譲地の不在地主だ。多くは都市部在住者で、草刈りを行うための道具もなければ、その技術も持ち合わせていない。わざわざ遠方の所有地に出向いて、無理して不慣れな作業を行うよりは、業者に依頼したほうが合理的である。
合理的とは言っても、使い道もない所有地の草刈りを、ただ費用を投じて続けていくだけでは、いつまで経っても出口に到達せず不合理極まりない話でもある。なんの管理もせずに雑木や篠竹が縦横に繁茂し、荒れ果てたまま放置していては、どんなに価格を下げても買い手を見つけることすら困難になってしまう。
土地を売るより、草刈りのほうが儲かる
こうした事情から、草刈り業者の中には、不動産業者として県知事免許を保有し、管理地の売却・仲介業務を兼務するところもある。彼らの本業はあくまで草刈りであり、継続的な収益が見込めるのもその業務である。不動産仲介業は「兼業」しているにすぎない。
仮に不在地主から草刈りを依頼された土地を底値のような価格で売却しても、わずかな額の仲介手数料が一度発生するだけだ。そのうえ顧客をひとり失うことになる。そうなると、どうしても仲介に不熱心な業者が出てきてしまうのは想像に難くない。
例えば、筆者の近所にある空き地の地権者は、30坪の土地に、一度の草刈りで約3万円の作業賃を支払っているという。業者は複数人で足を運び、専用の機械で草を刈り、完了後には写真つきで報告書を送付する。料金は土地の広さや地形によっても変わるので一概には言えないが、作業内容を見れば妥当な料金だろう。