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source : 提携メディア

業者の主目的はあくまで所有者から徴収する手数料なので、査定額が非現実的で、何の反響もなかろうとも、まったく意に介することはない。アリバイ的にネット広告も出す場合もあるが、掲載しているのは、業界団体が運営する、掲載料金のかからないマイナーな物件サイトのみである。

もちろん物件情報が更新されることもない。筆者が知るかぎり、解体前の建物の写真を使い続けたり、既に売却済みの物件まで広告として掲載しているケースもある。

こうしてネット上には「誰も買わない価格帯」の広告が大量に出される。これから売却を検討する所有者は、こうした情報を目の当たりにし、誤った相場観を植え付けられてしまうという悪循環が起きてしまっている。

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実際、売却の依頼を受けた地元業者が、適正な実勢相場に基づいた査定額を売主に提示すると、もっと高い価格で出されている広告があるではないかと怒られてしまうという話を筆者は何度も耳にしている。

分譲地の所有者の多くが都市部在住の不在地主で、都市部と比較して土地の価格が、文字通り「桁違い」に安いために、その価格が高いか安いかの判断すらできていないケースがあるのだ。

千葉の限界分譲地だけが空回りをしている

大量の無意味かつ非現実的な広告、需要を圧倒的に上回る過剰供給の常態化、不在地主であるがゆえに浸透しない実勢相場など、千葉の限界分譲地は非常に特異な市場が形成されている。

昨今は、日本各地の古い分譲地、別荘地の更地は軒並み価格が下落しているとはいえ、実勢相場に納得できない地主の土地は単に市場に出てこないだけで、売れもしないのに膨大な広告だけが溢れかえっているという状況はみられない。

管理者もなければ地域社会との繋がりもなく、不在地主が自力で「管理」「売却」に奔走しなくてはならない千葉の限界分譲地の更地だけが、ほとんど需要もない中で空回りを続けているのだ。

何もかも他人任せで売却まで容易に済ませられる市場ではないという点では、市場のない地方の農村部とあまり変わらないのかもしれない。

吉川 祐介(よしかわ・ゆうすけ)
ブロガー
1981年静岡市生まれ。千葉県横芝光町在住。「URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-」管理人。「楽待不動産投資新聞」にコラムを連載中。著書に『限界ニュータウン 荒廃する超郊外分譲地』(太郎次郎社エディタス)がある。
なぜ売れないのに広告するのか…千葉郊外の放棄分譲地が「売れるはずのない価格」で宣伝する意外なカラクリ

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