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「高熱」でも登校強要、小テスト不合格生徒に「裏切り者」…武蔵野高2年生の自殺が、それでも再調査されない理由

「高熱」でも登校強要、小テスト不合格生徒に「裏切り者」…武蔵野高2年生の自殺が、それでも再調査されない理由

2023/04/12

genre : ニュース, 社会

「自殺をするほどの要因が家庭にあるとは思えませんでした。それに生前、勁至(けいし)は『疲れた』『時間がない』などが口癖でした。『もうこれ以上、この学校の犠牲者を出したくない』とも言っていました」

 2018年11月、学校法人武蔵野学院(東京都北区)に通う、高校2年生・高橋勁至さん(享年16)が自殺した。父親は冒頭のように証言する。

インタビューを受ける勁至さんの両親(23年2月11日撮影)

裁判では教職員による発言の違法性が認められず

 残された家族は、学校での出来事が自殺の背景にあるのではないかと思い、同学院に調査を要望した。第三者委員会は「不適切な指導」を認めた。しかし、それらの指導と自殺との因果関係については「どの程度の影響を及ぼしたかを認定することは困難」としている。裁判もしたが、知りたい事実を知ることはかなわなかった。遺族は「調査が不十分」として、小池百合子都知事に対し、再調査を求める「要望書」を提出。署名も集めている。都は取材に対して、再調査をしない方針を明らかにした。

 遺族は、学校側が設置した第三者委員会のほか、真実解明を求めて同法人を相手に損害賠償請求訴訟をした。東京地裁では一部の行為について、不適切な言葉遣いによる指導や注意を認めたものの、違法性は認められずに敗訴。東京高裁は、教職員の発言に対して、「教育者としての配慮を欠いた適切とは言い難い言動」としたものの、やはり違法性は認めず、敗訴となった。裁判では、知りたい事実がわからないままだ。

 遺族が自宅で筆者の取材に応じた。

不適切な指導が自殺の引き金に

「勁至の性格は、みんなを笑わせるタイプでした。小学校5年生のときから警察署で行われている柔道教室に通っていました。『柔道をやりたい』との希望があり、勁至本人が高校を選びました。他の高校の選択肢もありましたが、柔道の指導者とつながっていたこともあります。『これから柔道ができる』と柔道部に入り、1年生の頃は楽しくやっていました」(父親)

亡くなった高橋勁至さん(享年16)(23年2月27日撮影)

 冒頭の勁至さんの発言は、家族との食事中に出たものだという。しかし、両親はこの時点で、自殺まで考えているとは思っていなかった。亡くなったのは18年11月24日。いつも朝6時ごろ起きるが、起床した姿を家族に見せなかった。そのため、母親が部屋を見にいくが、いなかった。家族で付近を探したが、3階建ての自宅の屋上で亡くなっている姿を姉が発見した。

 学校側の第三者委でポイントになったのは、いくつかの不適切な指導だった。18年4月、カナダ留学のレポートをめぐる不適切な指導。18年9月、勁至さんが体育祭の練習に遅刻したときの不適切な指導。朝の小テストで合格ラインに達しなかった生徒を「裏切り者」と呼び、クラス全員が課題を課せられるという指導が行われていた――などだ。