文春オンライン

経済的に苦しい学生のセーフティーネット「月額700円の寄宿料」も…国立大学で相次ぐ「歴史ある学生寮廃止」の深刻な問題

source : 提携メディア

genre : ライフ, 教育, 社会, 経済

note

寮生で構成する「泉学寮廃寮問題ワーキングループ」のメンバーで、金沢大学4回生の冨樫洋乃輔さんは、1週間延期の確約書に記入し、4月7日に寮を出た。民間アパートは1年契約に応じないケースが多いうえ、高額な契約料や家賃を払うことも難しい。寮を支援していた地域の人が持つ古い一軒家で、元寮生8人と暮らすことになった。冨樫さんは大学の姿勢を次のように批判した。

「大学側の態度で寮生みんなが怒りを感じているのは、廃寮の決定も、その後の対応も全てが一方的で、私たちの話をほとんど聞いてくれなかったことです。4月7日に寮を出て行くときも、職員は学生と言葉を交わそうとしませんでした。担当は学生支援課ですが、学生支援といいながら、学生の生活実態に向き合おうとする姿勢は全く感じられません」

「老朽化」は本当の理由ではない

泉学寮は1965年に竣工(しゅんこう)した58年の歴史を持つ男子寮で、金沢市の市街地近くにある。鉄筋4階建ての建物には、かつては約170人の学生が暮らしていた。近くには1964年竣工の女子寮である白梅寮もあり、どちらも寄宿料は月額700円。光熱費などを含む運営費を合わせても学生の負担は月額1万円以下で済む。

ADVERTISEMENT

この金額は破格のようだが、もともと文部科学省の省令で決められた寄宿料だ。こうした寮は学生の福利厚生はもちろん、経済的に困難を抱える県外学生のセーフティーネットの役割を果たしていた。

しかし、大学は2019年2月、泉学寮と白梅寮の2023年3月末での廃寮を一方的に決めた。大学側が示した廃寮の理由は「老朽化」だった。耐震基準などは満たしているにもかかわらず、だ。筆者の取材に対して、金沢大学は廃止の理由を次のように回答した。

〈泉学寮は平成21(2009)年度に耐震補強工事を実施しており、工事後には泉学寮・白梅寮とも「当面の安心・安全は確保された」状態となりましたが、その後もコンクリートの劣化や経年による給排水設備等の老朽化がさらに(13年間)進行し続けており、建物の耐用年数50年も既に経過しています。「今後、大震災等に際し建物の安全性・健全性を維持することは困難」であるとの考えからです〉