次に求めるべきは「配偶者同意の撤廃」ではないか
経口中絶薬の導入にあたり、悪用されるリスクを懸念する声もある。実際に国内でも、妊娠した交際女性に国内未承認の中絶薬を飲ませた男性が不同意堕胎未遂の疑いで逮捕されるという事件も発生している。
「入院して処方される場合は悪用のリスクはきわめて低いですが、今後オンライン診療で処方されたりと規制が緩む日がくる可能性はあります。また、正規ルート以外で、適用外使用目的で平行輸入する場合もあります。ただ、悪用されるリスクがあるから承認されるべきではないという話ではなく、人の生命に関わる薬なので悪用を想定したうえで対策を考える必要があります」(宋さん)
また、日本では母体保護法により中絶する際、配偶者の同意が必要だ。DVなどで婚姻関係が事実上破綻し、同意を得ることが困難な場合に限って配偶者の同意は不要だが、中絶に配偶者同意が法的に必要なのは世界で日本を含む11カ国のみ。経口中絶薬も、服用には原則として配偶者の同意が必要になる見通しだ。
「経口中絶薬を入院して飲めるようになったあと、私たちが求めるべき権利は、オンラインで処方できるようにするとか、産婦人科医を受診しなくても処方できるようにする、ということよりも、配偶者同意の撤廃ではないでしょうか。女性が中絶したいと思ったら、本人の判断で中絶できるようにする。配偶者同意の撤廃を求める声は高まっていると思います」(宋さん)
ヒオカ
1995年生まれ。ライター。地方の貧困家庭で育つ。“無い物にされる痛みに想像力を”をモットーに弱者の声を可視化するために取材・執筆活動を行う。著書に『死にそうだけど生きてます』(CCCメディアハウス)がある。
産婦人科医、医学博士
大阪大学医学部卒業後、同大学産婦人科に入局。周産期医療を中心に産婦人科医療に携わる。2007年、川崎医科大学講師に就任。ロンドンに留学し胎児超音波を学ぶ。12年に第1子、15年に第2子を出産。2017年に丸の内の森レディースクリニック開院、一般社団法人ウィメンズリテラシー協会代表理事就任。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』『産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい 性の話』『医者が教える 女体大全』『産婦人科医が伝えたいコロナ時代の妊娠と出産』など著書多数。