しかし、浅井社長は重大問題に直面する。浅井農園の経営が、予想以上に悪化していたのだ。サツキ、ツツジといった花木生産がメーンで、公共工事の植栽などでかつては需要も大きかったのだが、実家に戻った08年頃には売り上げが最盛期の1割程度にまで落ち込んでいた。
「実態を知ったときは、目の前が真っ暗になりましたが、何か手を打たなければ、もう先がありません。そんなとき、閃いたのがミニトマトの栽培でした」
異色の農業を科学することに挑戦
浅井社長は実家に戻る前、ベンチャー時代に知り合った静岡県の企業の経営を手伝っていたが、その企業が新規事業としてミニトマトの栽培を手がけていたのだ。
「もともとトマトが好きじゃなかったんです。ところが、その会社のミニトマトは、甘くておいしかった。品種選びや栽培方法を工夫すれば、トマト嫌いの人でも食べられるトマトができる。チャレンジのしがいがある仕事だと、考えたんです」
早速、花木の苗木育成用の空きスペースを転用して、ミニトマトの栽培を始めた。試行錯誤の末、やっと「おいしい」と言えるトマトが実ったのだが、収穫量が少なく、費用がかかりすぎて、採算割れした。それでは、事業化など到底おぼつかない。
「農業には経営コンサルなどの経験がまったく通用せず、自信を失いかけました。そうしたなかで誰も手を付けてこなかった“農業を科学する”ことに、事業化の成否を賭けてみようと思い至ったのです」
最適な環境を整えれば収穫量は最大化できる
浅井社長によると、農業における生産性は、品種の選定、その品種の能力を最大限引き出す生産管理技術の2つによって決まる。植物は実に正直で、最適な生育環境を整え、最適なタイミングで栽培管理を行えば、収穫量を最大化できることが、すでに科学的に実証されている。しかし、熟練の農家は、経験と勘に基づいて農作業をしてきたので、その最適解が個人の“暗黙知”としてしか存在していなかった。他者が共有できる客観的なデータは、どこにもなかったのだ。