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米国研修で開眼 “農業を科学する”5代目社長、ミニトマトに活路 リスキリング・スマート農業で売り上げV字回復

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genre : ビジネス, 国際, テクノロジー, 働き方, サイエンス

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「そこで、まず“標準化”を目指しました。どんな条件で、どういった農作業をすればいいのかというデータと理論があれば、質のいい農作物を安定的に、しかも、効率的に低コストで生産できると、仮説を立てたわけです」

清水の舞台から飛び降りる思いで持っていた資金を叩き、10年に農業先進国であるオランダから「複合環境制御システム」を導入。センサーの設置によって、ハウスの温度や湿度、CO2(二酸化酸素)濃度といったトマト栽培に関わる、さまざまな環境データの集積から、まず着手した。「収穫の結果と照合すれば、どんなファクターが、トマトの生育に好影響を与えたのかがわかります。今度は、そうしたデータをフィードバックして、トマトの生産に生かせばいいわけです。言い換えれば、農業の“見える化”による生産改善です」

栽培ノウハウの最適解を5年で手中に

浅井社長は地元の三重大学大学院に入学し、トマトのゲノム育種の研究にも取り組んだ。約6年間在籍し、16年には博士号を取得。自身が「科学的な農業」に携わるための「リスキリング」であり、外部の研究拠点との交流を通じて、幅広く知見や人材を集めるためでもあった。現在標榜している「研究開発型の農業カンパニー」の実現に向けて、動き出していたわけだ。

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農業の見える化が「第1フェーズ」だとすれば、「第2フェーズ」ではデータの解析の進化に取り組んだ。その結果、「PDCAサイクル」がうまく回り始め、事業開始から5年ほどで、トマト栽培の最適解を手に入れることができた。そこで、実だけでなく、葉や茎も含めたトマト全体の生育状況を把握したりするなど、見える化の精度をさらに高めていった。一方で、タブレット端末での作業指示、動画マニュアルの作成によって、パートの新入社員でもすぐに農作業をこなせるようにするなど、労働生産性の“平準化”にも取り組み始めたのだ。

デンソーが自働化の共同パートナー

さらに現在、「第3フェーズ」として、農業の自働化にも取り組む。4年前から4.2ヘクタールの実験ハウスで、トヨタグループのデンソーと合弁会社を設立しての共同実証をスタート。そのなかでは、産業用ロボットによるトマトの自動収穫、無人運送システムによるトマトの実や葉の搬出などのテストを行い、実装段階に入っている。