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「オレは“悪名”でいいんだよ」…“いじめっ子”“阪神のジャイアン”と呼ばれた中込伸が誤解を解かずに沈黙を貫き続けたワケ

『阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや?』より#2

2023/06/01
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 中谷仁の左目に携帯電話を投げつけ、さらに山村宏樹をいじめて退団に追い込んだとされる「阪神のジャイアン」こと中込伸。だが当事者に話を聞くと、世の中のウワサとは全く異なる真実が――。

 ここでは喜瀬雅則氏の新刊『阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや?』より一部抜粋。当事者の証言と共に99年に起きてしまった“事件”の真相に迫る。(全3回の2回目/#1#3を読む)

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「ちょっと来い。ポンコツたちと行くぞ」

 1999年夏のある日。

 ファームの本隊は、遠征に出ていたという。

 鳴尾浜に残っているのは、出場機会のない調整組と、ケガ中のリハビリ組。練習を終えた中込の視線の先に、うつむいたまま、寮を出てきた中谷の姿が映った。

「パッと見て、暗いなと思ったんよ。たまたまあいつ、下向いて出てきたんよ、寮から」

 中込は、たまらず声をかけた。

「おーい、ちょっと今から、1軍のリハビリ組、ポンコツたちと一緒にバーベキューするんや。ポンコツたちと一緒に、バーベキューに行くか!」

 鳴尾浜はその名の通り、海の近くにある。中込は、海岸近くの公園でバーベキューを開く予定だった。ベテラン選手の家族や子供たちも交えての盛大な宴だ。

「あいつは、真面目なんよ。暗くなっとったからね。だから『ちょっと来い。ポンコツたちと、行くぞ』って言ってね」

 ポンコツ、と連呼するのも、中谷への励ましと、参加しやすい空気を作るためだろう。

 肉や野菜を焼いている時、中谷は海の近くで、ベテラン選手の子供たちと遊んでいたという。その時、中谷の携帯電話が鳴った。

「投げても、下が砂やから(携帯電話が落ちても)大丈夫やろうと思って投げたら、ガツンとあたってしまった」

 左目を直撃してしまったのだという。

 視力が低下し、プレーに支障が出たのも事実だ。なんとも不幸な事件だ。

 ただそれも「中込が至近距離から投げつけた」という話になっている。

山村が明かした“中谷と中込のその後”

 山村をイジめ、中谷には携帯を投げつけた。

 とんでもない男のイメージは、もう、四半世紀近く変わっていない。

「俺が誘ったからだよ、そういう事件が起きたのは。真面目にしてるからなんだよな。あいつがちゃらんぽらんで『いや、いいです、今から飲みに行くんで』ってなってたら、その事件は起きんかった。俺が誘うからや、そこで誘わんかったらな……」

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