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AVデビューと引退、毒親との生活…「あたたかい地獄」から、“わたし”はどう帰還したのか(戸田真琴『そっちにいかないで』/第2回)

2023/06/04

source : 提携メディア

genre : エンタメ

下着姿でしばらく写真を撮られたあと、カメラマンは一度カメラを置いて、ハンディカムを持ってきた。仕切りを動かして、ホリゾントと白い布で囲まれたちいさな部屋にしてから、

「それじゃあ、脱ぐところ動画撮ってくから」

と、言われた。まあそうか、そうだよね、そうだよな、下着も取るんだよね。と、頭の中でしゃべるように繰り返してから、「はい!」と、返事をした。はい、の、い、が、捲れ上がっていた。ばれないようにすばやくホックを取ろうとしたら、カメラがまだ回っていないと止められた。

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カメラマンの津崎が、動画のRECボタンを押す。わたしはレンズを見るように言われ、もうここまできたらさっさと脱いでしまいたいな、と思いながら、ブラジャーのホックに手をかける。

「どんなタイイが好き?」

わざと動画にしっかり入るように大きな声で、津崎が聞く。インタビュー動画的なものを、下着を脱ぐ動画と同時に撮るつもりらしい。とっさに質問の答えを考えるけれど、「タイイ」という言葉がそもそもなにを指すのかがわからない。

「えっと、タイイ、ってなんでしたっけ」

まるきりわからないわけではないよ、たまたま忘れているだけだよ、というていを装って、ごまかしながら聞く。津崎は鼻から息をふん、と吐いて、

「セイジョウイとか、キジョウイとか、バックとか。どれが好きだった?」

と、聞き直す。

ああこれさっきの、面接シートのときに聞いておけばよかった。隙を見てこっそり調べたらよかった。ほんとうになんのことかわからない、どうしよう、と思いながら、しばらく目を泳がせていると、だんだんと津崎の表情も不安げに曇っていく。

「どうしたの? 恥ずかしがらなくていいんだよ。一個ずつ聞いていこうか。セイジョウイは好き?」

「……わかんないです」

「えー。キジョウイは? やったことある?」

「えっと……たぶん、ないです」

「え、バックでしかやられたことないとか?」

「ばっく……っていうのは、いったいどういう」