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AVデビューと引退、毒親との生活…「あたたかい地獄」から、“わたし”はどう帰還したのか(戸田真琴『そっちにいかないで』/第2回)

2023/06/04

source : 提携メディア

genre : エンタメ

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「どうしても、10代ってことにしないとだめなんですか?」

たくましい眉毛をハの字に下げ、大きな体を丸めて懇願する男に、わたしはおそるおそる、意見した。

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「ぜんぜんそうにしか見えないから大丈夫だって! ほんとは一八にしたいくらいだよ。君の見た目で二〇以上で売り出すのはもったいないから! ぜんぜん売り上げも変わるし。だめ?」

広々とした和室ふうスタジオ、大きな照明機材と数十万するらしいレンズを取り付けるカメラマン、目の前に広げられた化粧品。髪を丁寧にアイロンで伸ばされながら、わたしは困り果てていた。

AV女優というのは、働き方が大きく分けて二種類に分かれる。メーカーと専属契約をして月に一本ずつリリースをしていく専属女優と呼ばれるものと、どことも専属契約はせずに月に本数制限なくさまざまなメーカーの作品に出演する企画女優。専属女優は月に一本ずつ決まったメーカーの作品にしか出られない代わりに単価が高く、ひとりのタレントとして継続してプロデュースされる側面が大きい。メーカーの采配次第でさまざまなメディアへ出演する機会も多く、個人のキャラクターに対してファンが付きやすい。

企画女優は、一本の単価が下がる代わりにポテンシャル次第で一月に本数制限なく出演でき、できるだけたくさんお金を稼ぎたい人が自ら望んで専属をやめて企画女優になることもある。しかし出演する作品をしっかり自分で選ばないと、多くの場合専属女優よりも過激な内容の作品に出演することになったり、女優ではなく一般人というていで名前を出さずに素人役を演じることなどもある、諸刃の剣のような働き方でもある。現役AV女優たちのSNSプロフィールなどを見ていても、「企画女優」と明記する人が少ないのに対し、「◯◯(メーカー名)専属」と目立つ箇所に書く人は何人も見受けられ、彼女らの投稿からは自分に自信を持って美しさを武器に働いているような印象を受けた。漠然と例えるなら、内側から発光しているようにキラキラしている女優は、どこかの大手メーカーと専属契約をしていることが多かった。それだけでも業界内のヒエラルキーが素人からでも窺えた。