何かをただ待つ時間は苦痛になることもありますが、コーヒー豆を挽ひくよい香りも、そうしたストレスをやわらげてくれます。こうしたさまざまな施策の結果として、スターバックスの店舗はお客さまにとって落ち着ける場所になっていきました。コーヒーのおいしさと居心地のよさを楽しむ一連の体験は最初からあったわけではなく、お客さまの価値を求め、時間をかけて磨き上げていったのです。
都合よく切り取っても、ブランディングは成功しない
また、スターバックスはオフィス街を中心に店舗を構え、ビジネスパーソンにホッと落ち着ける場所を提供しています。さらにアメリカではバーンズ&ノーブル、日本では蔦屋書店と提携して書店の中に店舗を出し、多くの店舗では無料Wi-Fiを導入してパソコンやスマホがインターネットにつながりやすいようにしています。
このようにスターバックスはいろいろな施策を行っていくなかで、お客さまにとっての価値が高まる方法を考え抜いた結果、今に行き着いたわけです。つまり、スターバックスが成功した理由は、お客さまの反応を見ながら「何がお客さまにとって価値になり得るか」を考え続けてきたことです。さまざまな変化をしながら、お客さまに対して自分たちがどのような価値を提供することでお金をいただけるかを常に試行錯誤し、継続的な収益を生みだすために、価値を高め続ける努力をしているということでしょう。
スターバックスは今後も進化し続けると思いますが、このような価値づくりの変遷を理解せずに結果として成立しているブランディング部分だけを切り取って、その真似をしても、同じようにうまくはいかないはずです。
それぞれの企業が、自分たちはどんな便益や独自性を提供できるのか、それを価値と感じてくれるお客さまにどう伝えるのかということを考えなければ、ブランディングは成功しないということです。
Strategy Partners代表取締役
1990年大阪大学経済学部卒業後、P&Gに入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターとして「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランド担当。2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デ・オウ」「ロート目薬」などの60以上のブランドを担当。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。2016年にロクシタングループ過去最高利益達成に貢献し、アジア人初のグローバルエグゼクティブコミッティメンバーに選出、その後ロクシタン社外取締役戦略顧問。2017年にスマートニュースへ日本および米国のマーケティング担当執行役員として参画。2019年株式会社Strategy Partnersの代表取締役として事業戦略・マーケティング戦略のコンサルタント業務および投資活動に従事。戦略調査を軸とするM-Force株式会社を共同創業。著書に『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)、『マンガでわかる 新しいマーケティング』(池田書店)、『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』(日経BP)などがある。
