文春オンライン

なぜ三重県女児虐待死は防げなかったのか…元児童相談所職員が指摘する「AI導入の盲点」

source : 提携メディア

genre : ニュース, 社会

子を保護されたくない親は嘘もつくし隠しごともする

しかしながら、自分の虐待を隠そうとする親の方が当然多い。確かに、母親自身が本当に困れば相談してくるだろう。私の経験では、母親が「子どもを預かってほしい」と相談してきた理由が「実は彼氏と一緒に住みたいから」ということもあった。つまり、「母親が困っている」というのは、「子どもが傷ついている、苦しんでいる」とイコールではないということを児相職員は知っておかなくてはならない。

子どもを虐待しながらも保護されたくない親は、嘘もつくし、隠しごともする。「なぜ自分が虐待してしまうのに、保護してほしくないのか」と疑問に思う方もいるだろう。実は虐待というのは中毒性が非常に高い。親は、子どもがいなくなると虐待できなくなるから困るのだ。だから子どもに執着する。つまり、「親が指導に従う姿勢がある」は、保護しない理由であってはならないのだ。

AI導入によって救える命は増えないのか?

では、AI導入によって児童相談所の専門性は向上しないのか。救える命は増えないのか。三重県の事件に関して言えば、子どもを救えなかった原因の一つは、AIが評価する為に必要な情報が入力されていなかった、ということだ。つまり、実際に親と子どもに直接会った職員が「虐待リスクはそれほど高くない」と判断していれば、重要な情報が入力されない可能性があるのだ。担当者が「この情報は重要だ」と思わなければ、調査すらしない、あるいは入力しないからだ。

ADVERTISEMENT

三重県は、この事件の重要な情報を全て入れた場合、AIがどんな数字を出すのか再検証してみてはどうだろうか。

そして三重県が「AIの評価は参考、最終的な判断は人」と述べている通り、AIの評価を1つの材料にしつつ、最終的には職員が正しい判断をできることが重要となる。

結局は、「AIを活用するにしても、職員の専門性の向上が必須」ということに他ならない。私はその為には、育成体制を強化することと、経験年数を積ませることしかないと思っている。現在は、自治体によるが、児童相談所勤務を希望しない、知識も経験もない職員が児童相談所に配属される現実がある。

関連記事