宮﨑駿監督(82)10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』が公開された。舞台は戦中・戦後の日本。作品では、敬愛する歴史探偵・半藤一利氏との対話の“成果”が見え隠れしていた。
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前作『風立ちぬ』公開前の大きな出会い
同作は戦時下の日本、母を失った少年が父とともに疎開する場面から始まる。
「ファンタジーと冒険活劇の一方で、市井の人々の見た戦争が描かれています」(映画ライター)
前作『風立ちぬ』(2013年)の公開前に、宮﨑氏には大きな出会いがあった。その相手が、『日本のいちばん長い日』で知られる作家の半藤氏だ。2人は『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(小社刊)と題した書籍も刊行した。
「夏目漱石、戦争、昭和初期の東京など、縦横無尽に語っておられました。宮﨑監督は、『こんなこと聞いちゃっていいのかな』と、まるで恋する乙女のように、頬を染めながら質問を重ねていらしたのが印象的でした」(担当編集者)
宮﨑氏は、その思い出を縁台に座り笑顔で会話する姿として描いた。半藤夫人の末利子さんが明かす。
「宮﨑さんのことを『オレのことが好きらしくて、いろいろ本を読んでくれているんだ。変わったやつだよな』と、嬉しそうに話していました」
2017年10月の漱石山房記念館の開館記念イベントでも2人は“共演”。その際、宮﨑氏が新作映画のタイトルが『君たちはどう生きるか』であることを明かすハプニングもあった。
「その日、主人と一緒に宮﨑さんにご挨拶をしました。でも、宮﨑さんは私には一瞥(いちべつ)もくださらず、うっとりと、半藤の方ばかり見ていらっしゃいました。よほど彼のことが好きなんですね(笑)」(同前)
半藤氏は14歳で体験した東京大空襲について繰り返し語ってきた。一方の宮﨑氏も幼い日に空襲を経験するなど、戦争体験は共通するものがあった。