「一つ結果が出てよかったなと。ちょっとホッとしています」
マスク越しに安堵の表情を浮かべるのは羽生善治九段(52)。1月21日、22日に行われた第72期王将戦七番勝負の第2局で若き“絶対王者”藤井聡太王将(20)に快勝したのだ。
(年齢・肩書きなどは、いずれも雑誌掲載時のものです)
「羽生さんは若手同様、AIの研究で完全に自分の物にされていたのでは」
第1局は藤井の正確無比な指し回しに敗北したが、先手番となった第2局は終始リードを保ち、猛追を退けてゴールに飛び込んだ。
“藤井一強”の時代を迎えた将棋界。その強さはデータを見ても明らかだ。
「羽生九段が過去3度達成した年度勝率8割という大記録を、藤井王将は5年連続でキープしており、今年度、先手番では21連勝中。現在五冠のタイトルを奪われたことはなく、七番勝負では7回戦って25勝5敗と圧勝しています」(将棋ライターの松本博文氏)
そんな藤井に羽生はどう立ち向かったのか。藤井の師匠でもある杉本昌隆八段は、羽生が中盤に繰り出した一手に驚愕したという。
「羽生さんの8二金は衝撃的でした。相手玉をしとめるために使いたい金を、早々に玉の反対方向に打ち込んだんです。これはAIが得意とする手で、私や羽生さんの世代では筋が悪いとされていた。羽生さんは若手同様、AIの研究でこの手筋や感性を完全に自分の物にされていたのでは」
お互いが力を引き出し合い、さらに高い次元に到達している
金打ちを軸にした攻めは、今までの羽生に見られないスタイルだった。
「これまでの羽生将棋は、局面を複雑化させて、互いの指し手の選択肢を広くさせるのが持ち味でした。ところが今回は想定した局面まで一直線に切り込み、研究で圧倒するような勝利。これは渡辺明名人が得意としています。羽生さんはかなりご自身のスタイルを変化させて、新たな境地に達している印象です」(同前)