「Aさんは堺市で有名なお婆ちゃん。ガスでも水道でも工事を見つけると、すぐクレームを入れます。携帯は出ないようにしても、別の番号から電話がある。職員が水をかけられたこともあった。耐えかねた役所は“特別扱い”して……」
そう明かすのは、堺市役所の現役職員だ。
政令指定都市で、約80万人の人口を擁する大阪府堺市。大阪維新の会出身の永藤英機市長(46)は身を切る改革を掲げ、税金の使い方に厳しい視線を注いできた。
そんな中――。
2021年から昨年にかけて、A氏が住む団地前で上下水道局の公共工事が二度行われた。まず21年6月頃から始まったのが、配水管の布設工事だ。
「案の定、Aさんから『水道工事はやめて』『なんでナビダイヤルの電話やねん。待ってる間に電話代かかるやろ』『夜寝れへん』などと抗議が入りました。彼女の度重なるクレームをまとめたメモも“行政文書”として作成。それで請負業者と相談し、特別にホテルを確保することになったのです」(水道局員)
請負業者が明かす。
「Aさんの抗議で3カ月ほど工事は止まり、年末に約1カ月ホテルを手配した。数十万円かかった。公共工事の費用で『ホテル代』とは書けない。色んな工事費に混ぜて処理したと思う」
実はこの過程で請負業者に対し、異例な対応がなされていた。小誌が情報公開請求で入手した文書を基に、別の水道局員に尋ねると、
「流石に工事中止は無理ですが、近隣に配慮し、元々の契約では夜間施工だったのを昼間施工に変更した。交通の便などに大きな影響が出るものの、夜間のほうが単価は高いため、業者に支払う工事費は減額される。ところが、その減額分を穴埋めするかのように増額して支払っているのです」
「ホテルの蚊取り線香が金鳥じゃない。金鳥にしろ」
一体、どんなスキームを取ったのか。
「一般的に1日の労働時間は8時間以内です。国交省土木工事標準積算基準では、時間的制約を受ける工事(1日4.5〜7時間しか作業できない)の場合、労務単価を1.14倍(≒8÷7)に割り増しすると定められている。今回は“昼間の5時間だけ”と制約を受けるため、1.14倍を適用すべきでした。ところが“8÷5=1.6”という独自の計算式を編み出し、労務単価を1.6倍まで割り増ししたのです」(同前)
結果、業者に支払う工事費が450万円ほど増額されたというのだ。
「こんな計算式は使ったことが無い。Aさんのホテル代捻出のために工事費を上積みしたのでは、との疑念も出ています」(同前)
国交省建設システム管理企画室担当者も首を傾げる。
「国の基準を準用しているとはいえ、決めるのは自治体。ただ1.14を変えるというのは、あまり聞いたことがありません」
翌22年夏には、舗装道路の復旧工事も行われた。今回は水道局自らも、ホテル確保に奔走したという。
「8月から約1カ月、ホテルを押さえた。この間もAさんからは『業者の写真を撮れ』と言われたり、『ホテルの蚊取り線香が金鳥じゃない。金鳥にしろ』と抗議され、職員がわざわざ金鳥を届けたり……。結局、Aさんはホテルを途中で退去。別のホテルを確保する羽目になった。この時も宿泊費は十数万円になったはずです」(前出・現役職員)
Aさんに話を聞いた。
――水道工事がうるさい?
「決まってるやろ。(工事が)昼になってもっと渋滞して。水道局って頭おかしいねん。二十何年住んでいるけど、ずっと工事なんや」
――堺市がホテルを?
「それ、あかんでしょ、税金でそんなこと。誰が言うてんの? 私、水道局と仲良くないから。もう訪ねてくんの、やめといて」
不適切な公金支出の疑いなどについて、堺市役所は主に次のように回答した。
「近隣住民からの主な要望や対応内容等は、議事録で記録しています。施工業者がホテルを手配したことは承知していますが、費用を公金から支出するなど特別な扱いは行っていません。掘削から管入れ、埋戻までを5時間以内で施工する水道工事で、係数を1.6に変更契約したことは適正であると考えます」
ただ、1.6への変更は「前例は無い」とした。
“クレーマー老女”に前例は通用しなかった!?
