「代打清原でグワッとなる感じはもう前回も経験したので、それは期待しました」(森林貴彦慶応高校監督)
連日熱戦が繰り広げられた夏の甲子園。選手の奮闘のカゲで、イマドキの球児を本気にさせる、指導者たちの「言葉学」にも注目が集まっている。
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「ザ・高校野球」的な固定観念を覆す数々の発言
実に103年ぶりの決勝に慶応高を導いたのは森林監督(50)。自身も慶応高校野球部出身で、大学進学後は野球部には入部せず、母校で学生コーチとして指導。2015年に同高の監督に就任してからは「別に坊主頭じゃなくても、何も問題ないのではないか」「監督は絶対的な存在ではない。選手には自分のことを『さん』づけで呼ばせている」など、数々の「ザ・高校野球」的な固定観念を覆す発言を繰り返してきた。
そんな森林監督の言葉学がヒットしたのが冒頭の場面。8月19日に行われた準々決勝・沖縄尚学戦。慶応が2点を追う6回表の先頭で、元プロ野球選手の清原和博氏の次男・清原勝児を代打で起用。結果は投ゴロに倒れたものの球場全体が慶応を応援するムードに一変、その回、一気に6点を奪って逆転勝利を収めた。試合後のインタビューで森林監督は清原の起用について「空気を変える役割」があったと明かした。スポーツライターの田口元義氏が語る。
「監督は特別扱いをする人ではないので、あの場面で一番ヒットの可能性が高かったのが勝児君だったということでしょう。ただ、森林さんは慶応幼稚舎の先生でもあるので、小さい頃から勝児君が本当に野球が好きで熱心なのを見てきた。父親が清原和博さんということでマスコミから注目されるようになっても『天狗にならずに協調性をもってやってくれている』と。チームメイトもそれはわかっているので、勝児君がヒットで出たら勢いづくという狙いはあったと思います」
慶応野球部が掲げるモットーは「選手自らが考えてプレーすること」。森林監督もその点を意識した指導を行っているという。
「監督は『絶対に怒鳴らない』と。命令に従わせるだけでは自主性は育たないので、練習中に、声を荒げないように拡声器を使って選手と話しています」(高校野球担当記者)