ジャニー喜多川氏による性加害問題について、ジャニーズ事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」(以下、特別チーム)が、8月29日、調査結果を公表した。特別チームは、元ジャニーズJr.ら23人の被害者などにヒアリングを行い、ジャニー氏が1950年代から2010年代半ばまでの長期間にわたり、性加害を繰り返していたと認定した。被害者は少なく見積もっても数百人に上るという複数の証言があったという。
そして、「事務所が解体的な出直しをするため、社長を交代する必要があると言わざるを得ず、(中略)これにより事務所におけるガバナンス不全の最大の原因の一つである同族経営の弊害も防止し得ることとなる」とし、現社長である藤島ジュリー景子氏の辞任を求めた。今後、ジャニーズ事務所側が記者会見を開く。
二本樹顕理さんはジャニーズJr.として活動していた1996年秋以降、ジャニー氏から少なくとも10回程度の性被害にあったことを「文藝春秋 電子版」で告発。特別チームの調査にも協力してきた。
「日本ではそもそも男子の性被害を想定していないと感じます。ジャニーズのことも、都市伝説くらいに軽く考えていたのかも」――13歳のジャニーズJr.時代、故ジャニー喜多川氏から性被害を受けた二本樹さんは、長い間、強い自己嫌悪に苛まれ、一時は「もう死ぬしかない」と思いつめたという。どん底まで落ちた時は聖書に救いを求め、カウンセリングを受け、トラウマに向き合った。ジャニー氏死去の一報に触れた時、「ああ、これで少年たちを食い物にするような人物がこの世からいなくなったんだ」と安堵した。
これまで本連載では小中時代に教師から性暴力を受けたケースを取り上げたが、絶対的な力関係の下で被害に遭っている子どもが声を上げられないのは本件でも同じである。本件がさらに悪質なのは、犠牲の実態を知っても、周囲の大人たちが権力者に忖度し、見て見ぬふりを続けてきたことだ。性暴力の実情を長年取材するジャーナリストの秋山千佳氏の徹底取材第3弾。(連載第3回・前編、後編はこちら)
◆◆◆
1997年にアイドル雑誌の付録だったポスターがある。当時人気のあったジャニーズJr.の少年たちが上半身裸で身を寄せ合っている。下半身は写っておらず、彼らが一糸まとわず笑顔を振りまいているようにも見える一枚だ。
あどけない顔で納まっていた13歳の少年は、39歳になった今、打ち明ける。
「この頃はずっと嫌悪感がありました。ジャニーさんの性行為を受けたことによって仕事で優遇されるようになったんだと思って、強い自己嫌悪があった。そして、当時は性暴力だとは理解していなかったですけど『なんて汚い世界なんだ』と思っていました」
二本樹顕理は、ジャニーズJr.として活動していた1990年代後半、ジャニーズ事務所創業者で前社長のジャニー喜多川(2019年死去)からの性被害を受けていた。被害は半年から1年ほどの間に、10回程度。それは退所後も、人生に長い影を落とすことになった。
KinKi Kidsのコンサートにいきなり出ることに
1983年に生まれた二本樹は、マイケル・ジャクソンが好きな小学生だった。母親とともに来日公演に行って、「自分も歌って踊れるアーティストになりたい」と夢見た。11歳頃から劇団に所属していたが、中学へ進むと、日本で歌って踊れるアーティストを養成する代表的存在だったジャニーズ事務所へと自ら履歴書を送った。