京都アニメーション第1スタジオにいたある社員は「助からない」と覚悟した。重傷を負い何度も手術を受けた女性は「自分の顔じゃない」と悲痛の声を上げる。青葉真司被告(45)の初公判では、生存者らの調書が読み上げられ、避難の状況や被害の一端も明らかになった。
3階にいた原画担当の社員は階下の「ボン」という爆発音を耳にして避難を始めた。屋上の扉は解錠に複雑な操作が必要だと思い出し、直感的に階下の踊り場へ向かった。周囲は暗く、煙が腰の高さに迫る中、窓の光が見え、網戸を力づくで壊し外に出た。必死に息をしながら壁の足場につま先立ちになって張り付き、雨どいを伝って脱出したが、「私のルートで避難した人は誰もいなかった」という。
2階にいた作画担当の社員はらせん階段からギャーという女性の声が聞こえ、「キノコ雲のような黒い塊」が上がってくるのを見た。小走りで階段へ向かったが、引き返す人が目に入った。拳一つ分開いていた窓はびくともしない。煙は迫り、背後から寺脇晶子さんや男性の「早く開けて」「硬い物で割って」との声も聞こえた。窓枠は熱を帯び、周囲の声も聞こえなくなった。「出られない」「助からない」と諦めかけた時、頭上のガラスが熱で割れ、ベランダに脱出できた。
1階にいたマネジャーの女性は窓から脱出した直後、熱さと痛みに襲われた。救急搬送されるまでの記憶はあるが、気付くとベッドの上で、日付は約2カ月後の9月下旬だった。手術は25回以上を数え、「見慣れた自分の顔ではなくなってしまった」という。
