今、大きな問題となっているのが、中国からのイタズラ電話だ。東京都は8月31日までに、3万4000件以上のイタズラ電話があったと発表。実はこの種の電話は中国人の新たな「金儲け」の手段の1つだという。ジャーナリストの野嶋剛氏が緊急寄稿する。
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中国庶民が仰ぎ見るインフルエンサーの収入は…
日本への「イタズラ電話」には、中国の「日本産全水産物の輸入禁止」を超えるインパクトがあった。中国政府がこの一連の電話を背後で指揮していた、ということはないだろう。ただ、政府を挙げての日本バッシングの大号令のなかで、イタズラ電話に対する暗黙のお墨付きがあると人々が判断したことは確かだ。
その事態を加速させたのは中国製動画アプリ「TikTok」を代表とするSNSのライブ配信経済である。
中国では、近年ライブ配信動画における集金システムが独自の発展を遂げている。上手くいけば、小遣い稼ぎどころか、生活が成り立ち、あわよくば高額所得を獲得できる。中国政府の統計では視聴者は7億人で「直播」と呼ばれるライブ配信に励んでいる人は1億人だ。
TikTokが発表した2022年の収入ランキングではTOP10になると1000万元(1元=約20円)以上がずらりと並び、第1位配信者の収入は3000万元(約6億円)。中国の庶民からすれば仰ぎ見るような数字で、誰もがインフルエンサーになる夢を見るのも自然だ。
フォロワーの自尊心を満たす“投げ銭”の演出サービス
配信者の最大の収入源は視聴者による「投げ銭(礼物)」である。視聴者が好きな動画の配信者に、現金を送ることができる。
「投げ銭の単位は数円から5万円を超えるものまで細かく分かれ、TikTokと配信者で折半となる」(中国の動画サイト関係者)
多額の投げ銭をすると、特別な演出の画像が出るなどのサービスがあり、フォロワーの自尊心が満たされる。さらに、配信者から直接感謝の言葉を伝えられるので、先を争うように現金を渡してしまうのだ。
「10万フォロワー(登録者)を持つ配信者はひと月で5万元(約100万円)から10万元の収入が期待できる」(同前)と言われるが、グルメや旅行などをテーマに当たり前のことを話しているだけでは、フォロワーも投げ銭も増えない。